
(初出:2017年7月29日)
さユりさんの全国ツアー『ミカヅキの航海2017 ~夜明けの全国ツアー編~』、その2本目である名古屋公演に参戦してきました。
5月17日に発売された1stアルバム『ミカヅキの航海』を引っ提げ、全国6都市を回るツアー。
アルバム収録曲を中心としたライブでありながら、昨年『ミカヅキの航海』と銘打って行われたワンマンライブを大きく進化させたライブともいえるでしょう。
フロアとステージの境目には薄い紗幕が下ろされ、その向こうにバンドセットが見えている会場。
開演前は、さユりさんセレクトのBGMが流れていました。
場内BGMが止むと、やがて波の音が聞こえ、紗幕に月、水、そしてアルバム『ミカヅキの航海』ジャケットに用いられている三日月と海を模した模様が映し出されます。
袖からバンドメンバーの4人、ステージ奥からさユりさんが登場。
さユりさんは、青ポンチョ・黄色アコギ・裸足という、アルバム『ミカヅキの航海』のジャケットのスタイルでした。
「酸欠少女さユり」「ミカヅキの航海」の文字が投影され拍手が起こり、空気が引き締まってきたところで、さユりさんのブレス。
「太陽系を抜け出して」の歌い出しで、ライブが始まりました。
紗幕の向こう側から力強く『平行線』を歌うと、バックガスマスクのほうを振り返ってギターを掻き鳴らし、『るーららるーらーるららるーらー』。
途中で歌詞が飛ぶハプニングに見舞われるも、それを補って余りある歌声とギタープレイで、序盤から会場を熱気に包みます。
バンドのビートと聴衆のクラップに乗せて『プルースト』を歌い上げると、「改めましてこんばんは。さユりです」とあいさつ。
「会場のElectric Lady Landを一つの船みたいにしたい」「今日はみんなで、同じ船に乗っているつもりで」と呼びかけるさユりさん。
さユり「初めましての方もいると思います。楽しみと不安、両方あると思います。私も一緒です。だから安心してください。どっちも抱えながら楽しめたらと思います」
ここで、バックガスマスクことバンドメンバーの紹介。
キーボード ガスマスク2号(藤井洋)
ギター ガスマスク3号(ハルカ)
ドラム ガスマスク5号(哲之)
ベース 6フレッシュ(小島タケヒロ)
上下黒の服にガスマスクという、さユりバンドのおなじみのスタイル。
パワフルな演奏に加え、ときには腕を振り上げたり手を叩いたりして、終始会場を盛り上げていました。
2号さんが奏でるピアノの音をバックに、「次の曲は、私の中の、忘れちゃいけない、忘れたくない感情を歌った歌です」とさユりさん。
雨と信号機が繰り返し現れては消える映像を前に、聴く人の心に訴えるように『蜂と見世物』を熱唱。
その歌声は、ある種の叫び、あるいは警告のようでもありました。
「どうしようもなく悲しいことがあっても、流した涙が、いつか意味をもつとしたら。未来で自分を救ってくれるとしたら」
「あなたの中の、大切な記憶とつながりますように」
そう前置きして歌ったのは『フラレガイガール』。
「こっぴどくフラれちゃった女の子の歌」ですが、最後は少しだけ前向きな希望も垣間見えた気がしました。
ここで、ガスマスク3号さん、5号さん、6号さんがいったん退場。
ステージにはさユりさんと、キーボードの2号さんが残りました。
2号さんが弾くピアノの音がしばらく響きわたります。
「『夏』」とさユりさんが鋭く言うと、曲が始まりました。
アコギにピアノと、編成は原曲と同じだったものの、アレンジが大きく異なっていました。
歌声も弦の音も鍵盤を弾く手も力強く、熱く力のこもった夏を感じました。
その後、はけていた3人が再びステージに戻り、紗幕には額縁のような枠が投影されます。
披露されたのは、さユりさんの10代最後の曲であり、アルバム『ミカヅキの航海』リード曲でもある『birthday song』。
祈りにも似た言葉を、音楽に乗せて会場いっぱいに響かせます。
曲の終盤、歴代MVの映像が断片的に映し出されるという演出もありました。
続けて『オッドアイ』と『それは小さな光のような』。
相手を認め、過去を受け入れ、苦悩しながらも愛を捧げるという、『ミカヅキの航海』の一つのテーマのようなものがこの3曲に込められていたように思います。
ライブの終盤、「みなさんで一緒に歌うときがきました」と言って披露した『ケーキを焼く』では、ハンドクラップで盛り上げ、さらに間奏で、さユりさんの「今日はみなさんでレモンケーキを作るつもりでいきましょう!」というかけ声と合図に合わせて「ケーキを焼きましょう」「ケーキを焼いてみましょう」とシンガロング。
会場全体が一つになったところで、キラーチューン『人間椅子』を投入。
さらに、「後悔ばかりしてきました。今日からは、ちゃんと生きます」という独白からの『オーロラソース』。
力の限り歌い、髪を振り乱しながらギターを弾くさユりさん。
バックガスマスクもここぞとばかりに暴れ回ります。
さユりさんの長い前髪の隙間からは、セッションを楽しんでいる笑顔も見られました。
「私はずっと、自分のことを出来損ないだと思ってきました。自分のことが好きになれず、ずっと殻に閉じ籠もって生きてきました」
「だけど、こんな私だからできることがある。こんな私だけど、私にできる方法で世界と関わりたい」
ライブのクライマックスで、そう語って歌った『ミカヅキ』。
自分を歌った歌だった『ミカヅキ』が、今はかつての自分と同じ立場にある誰かの背中を押す応援歌のように聞こえました。
葛藤や苦悩、後悔を抱えながら生きてきて、『ミカヅキの航海』というアルバムを作り上げ、21歳を迎えた今のさユりさんは、「次は君の番だと」笑う満月のようにも思えました。
「ミカヅキの航海、楽しかったですか?」
最後の曲に入る前、さユりさんが聴衆に尋ねると、フロアからは拍手と歓声が返ります。
さユりさんはお礼を述べると、『ミカヅキの航海』で自分なりにたどり着いた答えを語りました。
「自分の生きている意味ってなんだろうって、自分はなんで生きてるんだろうって、ずっと考えてました」
「でも生きる意味って、最初からあるわけじゃないんですよね。ここにいる意味は自分で作らないといけない」
「楽しいばかりじゃない。つらい日々もある。それでもそんな日々を生き抜いて、今日私に出会ってくれた」
「あなたが、私が、私たちが、これまでの日々を肯定して、戦っていく。その力が、心の中に、あるって信じられるように」
そして、「今日は私と出会ってくれてありがとう。とっても楽しかったです」と言って深々と頭を下げると、ラストナンバー『十億年』を披露。
宇宙を思わせる映像が紗幕に投影される中、一言一言を噛み締めるように歌っていきます。
Cメロ後、一瞬の静寂。
さユりさんが大きく息を吸う音に、場の空気が震えます。
沈黙を破っての最後のサビ、さユりさんは振り絞るように、最後のメッセージを歌い上げました。
アウトロでエレキギターの歪んだ音が長く鳴り続いている中、さユりさんがステージ奥へ退場。
続いて、ガスマスク2号さん、5号さん、6号さん、最後にギターの音を止めて3号さんが袖にはけていく形で、ライブは幕を閉じました。
全体を通して、さユりさんのパワー、そしてパフォーマンス能力に圧倒されました。
小柄な体で、ステージ上を縦横無尽に駆け回るわけでもないのに、その歌で、ギターで、見る人を惹きつける大きな力を感じました。
そして、そんなさユりさんのパワーがあるからこその、バックガスマスクの“安心して曲をぶっ壊せている”感があり、それが気持ちよかったです。
僕がさユりさんを知ったのは1年ほど前のことですが、その頃だったら、たとえば『蜂と見世物』や『オーロラソース』などがここまでライブで化けることはなかったのではないかと思います。
原曲に忠実なところは忠実に、聴かせるところはしっかり聴かせて、壊すところは大胆にその場限りの音を楽しむ。
そんなバンドのさじ加減も絶妙でした。
選曲や曲順にもいい意味で裏切られました。
ステージの中心で歌声を響かせギターを掻き鳴らす姿は、荒波を越えていく船の、その舵をしっかりと切っていくさまを思わせました。
今のさユりさんだからできるパフォーマンスが、最大限発揮されていたのではないでしょうか。
さユりという人の存在証明を、圧倒的な熱量で見せつけられたライブでした。
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さユり ミカヅキの航海2017 ~夜明けの全国ツアー編~
2017年7月28日(金) @名古屋Electric Lady Land セットリスト
01.平行線
02.るーららるーらーるららるーらー
03.プルースト
04.蜂と見世物
05.いくつもの絵画
06.knot
07.フラレガイガール
08.夏
09.birthday song
10.オッドアイ
11.それは小さな光のような
12.ケーキを焼く
13.人間椅子
14.オーロラソース
15.ミカヅキ
16.十億年
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それでは、今回はこのあたりで。