【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 第18章①

Film.2 ~ブループリント~

 
──雪どけの花が開く頃、僕の目に映る音は何色だろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ブループリント~ 第17章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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◆ 第18章①

「キラーチューンがほしい」
 その日のスタ練で、トイチは真っ先にそう言った。
「キラーチューン?」と僕。
「要は必殺技みたいな曲ですよ」キスケが答える。「このバンドといえばこの曲、っていうような、ライブでも思いっきり盛り上がる曲です」
「paletteには、まだそういう曲ってなかったと思ってな。来年の大会で勝つことも考えると、強烈なインパクトを与える曲が一つ必要だろう」
 そんなトイチの提案で、僕たちはpaletteの必殺技みたいな曲──キラーチューンを作ることになった。
 デモ音源はすでにトイチが作ってきていた。トイチはそれを僕たちに聴かせ、曲のおおよそのイメージを伝える。そして彼が刻むリズムに、僕たち楽器隊が音を乗せていく。あいちゃんはデモと僕たちの演奏を聴きながら、曲を体に覚え込ませている。
 バンドを組んで一年半。この光景もだいぶ見慣れてきた。

 Bメロにあたる部分を合わせていたら、翠ちゃんがおもむろに手を挙げた。
「今の部分、もう一回試してみてもいい? ちょっと弾き方を変えてみたいの」
 おや、と思った。僕としては疑問点は感じなかった。ほかの三人も僕と同じ感想のようだった。
「ちょっと気になって。みんなはさっきと同じようにやっていいから」
 ひとまず、翠ちゃんに従って同じ箇所をもう一度演奏する。
 緑色や紫色が、先ほどより少なくなっていた。
 翠ちゃんの跳ねるようなベースラインが、平坦なものに変わっていたのだ。
「やっぱり、こっちのほうがいいかしらね」
 演奏を止め、確かめるように言う翠ちゃん。
「最初の弾き方でよかったんじゃないか?」とトイチ。
「俺もそう思います」とキスケ。
「……でも、普通こんなふうにベースが入ることなんてないんじゃないかしら」
 珍しく自信なさげな翠ちゃん。どこか様子がおかしかった。
 ──私は、普通になりたかったから。
 スタジオに来る前に彼女が漏らした言葉が頭をよぎった。

「翠ちゃん、どうしたの?」
 あいちゃんが翠ちゃんにそっと近寄る。トイチとキスケも心配そうにしていた。
 しばらくして、翠ちゃんがためらいがちに口を開いた。
「……この前、先輩のバンドのサポートに私が入ったことあったじゃない?」
 僕たちは頷いた。
 数日前、大学の軽音サークルに所属しているOGの先輩のバンドで、翠ちゃんが臨時のベーシストとして急遽ライブに出ることになった、ということがあったのだ。
「四人組のガールズバンドで、練習中は先輩たちはみんな優しくしてくれた」翠ちゃんが話し始めた。「本来ベースやる先輩は怪我でちょっと弾けなくなっちゃっただけみたいで、本番は見に来てたの。私は初対面だったけど、当日は挨拶もしたし、代わってくれてありがとう、頑張ってね、とも言われた」
「うん、それで、ライブはどうだったんだ?」とトイチ。
「ライブ自体は成功したんだけど……」翠ちゃんが首をかしげた。「いや、もしかして成功じゃなかったのかな?」
「何かあったの?」とあいちゃん。
「手を抜いたら失礼だと思ったから、いつもpaletteで弾いてるのと同じ感じでベース弾いたの。なんならちょっとアドリブを入れたりもした。……そしたら本番が終わったあと、私のいないところで先輩たちが話してるのが聞こえちゃって」
 翠ちゃんの声色が暗くなっていく。
「なんて言ってたの?」あいちゃんがおそるおそる先を促した。
「まずベースの先輩が、『なんであんな子連れてきたの?』って。そしたらギターとドラムの先輩もね、それに同調するように、『ボーカルやギターの邪魔すんなって感じだわ』とか『ちょっと上手いからって調子乗らないでほしいよね、高校生のくせに』とかって言い出して。ついには私を紹介してくれたボーカルの先輩まで、『ごめんね、ちょっと特殊な子でさ』『もっと目立たないように言っとくべきだった』って。……さすがに、ちょっとショックで」

 数秒の間、沈黙が流れた。
「そ、そんなことがあったんですか。女の人って怖いですねぇ」
 キスケが肩をすくめる。
 そんなこと言うと女の子に嫌われるわよ、なんて普段の翠ちゃんなら言いそうなものだが、そんな切り返しをする余裕もなさそうだった。
「翠ちゃん、文化祭の準備とかもあったのに、その中でそっちの練習も頑張ってたんでしょ?」あいちゃんがフォローを入れる。
「やる曲は有名なバンドのコピーだったし、正直、覚えるのにそこまで苦労はしなかった。……でも、たいして頑張ってもないのに弾けちゃったのがよくなかったのかな。私が普通の高校生だったら、こうして僻まれることもなかったのかな、って……」
 翠ちゃんが俯き、声を震わせる。
「翠ちゃんがそこまで気に病む必要はねぇよ」ドラムの前にずっと座っていたトイチが立ち上がった。「努力せずにそこまでできてしまうのは、それはすごい才能だろ」
 僕にも何か言えることはないだろうか。考えてみる。
 普通になりたいと思っているなら、それは僕とは真逆の感覚だった。
 僕はたまたま絵梨奈がいてくれたから、普通じゃない自分の感覚を受け入れることができた。
 けれど、もし絵梨奈がいなかったら、あるいは特別だと言ってもらえなかったら、僕は果たして自分を肯定することができただろうか。
「僕が言うのもなんだけど……、paletteってさ、普通じゃないバンドだと思う」
「普通じゃない?」きょとんとする翠ちゃん。
「たしかに、そうかもですね」キスケが僕に同意した。「俺らって、仲よし同士が集まったとか、モテたいからバンドやってるとか、そういうグループじゃないと思うんです」
 それぞれに癖のある四人の楽器が、あいちゃんのまっすぐな歌声を支える。そんな絶妙なバランスで僕たちの音楽は成り立っていると思う。
 それだけじゃない。僕たちはおそらく、普通に生活していたら言葉を交わすことすらなかった気がするのだ。
 能力や適性のあった五人が、音楽をする場としてここを選んでいる。
 僕たちは音楽を通じて仲間になった。
 逆に言えば、音楽がなければ会う理由なんてなかった。
「私たちにとってpaletteってバンドはある意味、五人をつなぎ止める糸みたいなものなんだよね、きっと。文化祭のとき、翠ちゃんが、あいちゃんはpaletteにいていいんだよって言ってくれて、私、すごく嬉しかったよ」
 あいちゃんが翠ちゃんの手をとる。
 翠ちゃんの表情が、少しずつ明るくなってくるのがわかった。
「三人の言うとおりだぜ、翠ちゃん」手に持っていたスティックを回すトイチ。「俺たちは、性格も趣味もみんな違う。それこそ同じ中学だった俺とキスケだって、音楽がなかったら知り合うことすらなかったと思ってる」
 トイチは再び座り、ドラムを軽く叩いてみせた。
「そんな俺たちのベーシストなんだから、ちょっと普通じゃないくらいがちょうどいいさ。まして今作ってるのはpaletteのキラーチューンなんだ。ぶっ飛んでたほうが絶対いい」
「心配しなくても、俺ら楽器隊は宮島さんに飲まれるつもりはありませんよ。ね、湊さん」
 キスケに振られ、僕は翠ちゃんのベースやコーラスの色を思い出した。
「翠ちゃんが入るとさ、浮かび上がる色に光や陰がついて、全体的に鮮明になるんだ。四人じゃ足りない色を、翠ちゃんが補ってくれる感じ」
「だそうですよ、宮島さん」キスケが親指を立てた。
「私も翠ちゃんに負けないように歌う。だから翠ちゃんは才能を思う存分見せつけてよ!」
 あいちゃんがマイクの前に戻った。
「……わかったわ」翠ちゃんはベースを肩にかけ直し、弦を指ではじいた。「もう一回、仕切り直しましょう!」
 
 
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