【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 第15章

Film.2 ~ブループリント~

 
──雪どけの花が開く頃、僕の目に映る音は何色だろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ブループリント~ 第14章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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◆ 第15章

Music(ミュージック) Breakthrough(ブレイクスルー) Contest(コンテスト)』、通称ミューブレ。
 大手楽器店とレコード会社の共催で、次世代の音楽界に切り込む才能を発掘する、という理念のもとに毎年開催されている音楽コンテストだ。
 全国のアマチュアバンドが、一組あたり十分の持ち時間でパフォーマンスを競い合う。
 参加条件は、メンバー全員が十八歳以下であること。そして、演奏するのはオリジナルの曲であること。
 まず都道府県ごとに予選があり、それを勝ち抜くと東京で開催される全国大会へ進むことができる。
 都道府県予選の審査会場は各地のライブハウス。地区によって勝ち抜け枠の数などは多少異なるが、僕たちの県では例年、七月前半頃に予選がおこなわれる。
 そして、全国へと駒を進めることができるのは一組だけだ。
 ちなみに全国大会は、各都道府県の代表がいくつかのブロックに分かれて審査される「予備選」と、予備選を勝ち抜いた十組による「決勝」という二つのステップに分かれている。
 この大会で優れた成績を残せば、そのままデビューということもありえるのだそうだ。実際、今や誰もが知る人気バンドの中にも、この大会がきっかけでデビューしたというグループがいくつかあるらしい。

 以上が、トイチが説明した大会の概要だ。
 トイチと顔なじみの楽器店関係者が卒業ライブを見に来ていたらしく、オリジナルの持ち歌があり実力も兼ね備えたpaletteに、ぜひ出場してみないかと声をかけたということだ。
「──で、どうだ? ミューブレ、出てみないか?」
 卒業ライブ後のファミレスの席で、トイチが僕たちに尋ねた。
「そうは言っても、トイチくん的にはなんとしても出たいでしょ?」
 翠ちゃんが訊き返した。
「ああ。俺はミュージシャンになりたいっていう夢がある。だからミューブレは大きなチャンスだと思ってる」
 トイチがミューブレのチラシに手を置き、僕たちを見据えた。
「だけど、俺ばっかり乗り気でもしょうがないから、お前らの気持ちを聞いておきたい」
 熱を帯びた口調で話すトイチ。
 僕たちは誰一人、異を唱えなかった。
「私も出たい! 始めから断るつもりなんてないよ!」
「俺も賛成です。大会って聞くとなんか、部活、って感じで燃えますね!」
「もちろん、私も協力するわ」
 あいちゃん、キスケ、翠ちゃんが首肯する。僕も迷わずそれに続いた。
「僕も東京に──全国に行きたい! 出よう、ミューブレ!」
 トイチは安堵したように表情を緩め、チラシを折りたたんだ。
「……ありがとな。よし、全国行くぞ!」
 こうして僕たちは、ミューブレにエントリーすることになった。

 ミューブレは、都道府県予選も全国大会も、一般の人が観覧できることになっている。
 演奏や歌唱の技術のみならず、楽曲そのもののクオリティや、ライブでの見せ方なども審査項目にあるという。観客をいかに乗せられるかも重要ということだろう。
 一般のお客さんが見に来るということは、当然、絵梨奈を呼んでもいいということだ。
 予選から絵梨奈に声をかけてもよかったが、せっかくなら全国だ。東京なら地理的にも彼女を誘いやすいし、より成長した僕たちを見てもらえるというものだろう。
 卒業ライブの際、絵梨奈が東京から地元に来てくれたんだ。今度はこちらが東京に行かなければ。
 全国に行けば、また絵梨奈に会える。
 今度は東京で、絵梨奈に僕たちのステージを見てもらおう。
 その気持ちが僕を突き動かしていた。

  *

 二年生に進級して三カ月、ミューブレまでの日は瞬く間に過ぎていった。
 そして、県予選当日がやってきた。

 この年、僕たちの県でのエントリーは二十組ほど。トイチいわく、これでも全国的には少ないほうなのだそうだ。
 ここから全国に進めるのはわずか一組。
 場所は県内最大級のライブハウス。会場内には、これまで経験してきたどのライブともピアノコンクールとも違った、独特な空気が満ちていた。ほかの出演者たちからはどこか殺気めいたものさえ感じた。
 緊張の糸がいたるところに張り巡らされているようだった。
 ここは勝負の場なのだ、ということに改めて気づかされる。

 都道府県予選とはいえ、プロデビューのチャンスもある大会だけあって、どのグループもハイレベルだった。中には中学生の参加者もいたが、高校生顔負けの演奏を見せつけていた。
 曲そのものはオーソドックスでも、見える色は炎のように揺らめいたり、霧のように周囲に立ちこめたり、刃のように空を切り裂いたりする。
 演奏者の実力の高さを物語っていたのだろう。こんな色の見え方もあるのか、と驚かされるばかりだった。

 けれど僕たちpaletteも、彼らに引けをとらない演奏ができた自負はあった。
 僕たちは持ち歌の中から特に自信のある曲を二つ選んだ。あいちゃんの声を最大限に活かすバラードと、キスケとトイチのパワーを全面に押し出したロック。大会に向け、アレンジをよりブラッシュアップさせた。
 大きなミスやトラブルもなく、もてる力は十二分に出せた。観客を沸かせることもできたと思う。
 あいちゃんの歌声も、トイチ、キスケ、翠ちゃんの音も、僕が感じた限りベストな色彩の調和を見せていた。

 出番を終えた僕たちは、客席後方に五人で固まって、ほかの出演者たちのパフォーマンスを見ていた。
 最後から二組目の演奏が終わり、ステージが暗転して転換に入ったところだった。
「……さて、次でいよいよトリか」
 トイチが言った。キスケが、大会プログラムの書かれた紙をポケットから取り出した。
「ホワイトアウト、ですか。どんなバンドなんですかね」
 すると翠ちゃんが口を開く。
「ホワイトアウト。ボーカル、ギター、ベース、ドラムの四人組バンド。メンバーは全員、高校二年生。私たちと同じね」
「翠ちゃん、詳しいね」とあいちゃん。
「調べたら出てきたの。──去年、全国に進んでる」
 僕たちは息をのんだ。翠ちゃんは続ける。
「特にボーカルの鹿目(かなめ)くんは、過去に『歌の上手い天才小学生』としてテレビに出たこともあるみたい。ミューブレには中学生の頃から出場してる」
 暗転したステージの上で、ギター、ベース、ドラムの三人がスタンバイしている。
 その真ん中に、ダボダボのTシャツとダメージジーンズという姿の小柄な少年が姿を現した。彼が鹿目くんだろう。
「なるほど」トイチが野心的な目をステージに向ける。「要は奴らが、俺たちが乗り越えなきゃいけない壁、ってところか」

 ステージの照明がついた。
 一曲目、鹿目くんが大きく息を吸った。サビ始まりの曲のようだ。
 彼の声が放たれた瞬間、周囲の空気が震えた。

 ホワイトアウトの音楽は、いうなれば極彩色の演舞だった。
 赤橙黄緑青藍紫、原色の渦が宙に咲く。寄せては返す色の波、ふっと凪いではまた猛る。
 ビビッドカラーの嵐には、しかし毒々しさは感じない。
 バケツのペンキをぶちまけて、繊細な絵画を描いているようだった。僕はあっという間に彼らの世界に引き込まれた。
 色の見え方を差し引いても、彼らの技量は頭一つ飛び抜けていた。
 とりわけボーカルの存在感は圧倒的だった。小さな体のどこにこんなパワーがあるのだろう。歌唱力だけなら、鹿目くんは今すぐにでもプロとして通用するのではないだろうか。
 もちろん、フロントマンとして観客を煽ったり手拍子を求めたりすることも忘れない。
 この十分間、間違いなく会場のボルテージは最高潮に達していた。

  *

 ミューブレ県予選から約二週間。高校は間もなく夏休みという頃だ。
 期末テストなどもあり、大会後にスタ練をするのはこの日が最初だった。
 大会は終わったが、今度は文化祭ライブに向けて準備をしなければならない。
 スタジオ入りまで時間があったので、僕たち五人は楽器店の隣のカフェに集まっていた。
「あー、思い出すとやっぱ悔しいですね……。まだちょっと泣きそう」
 背もたれに背を預け、キスケが天を仰いだ。
「まだ言ってんのかよ」トイチが苦笑いする。

 あの日、全国への切符を手にしたのは、トリを飾ったホワイトアウトだった。
 当然の結果だとは思った。けれどやはり、いざ結果を突きつけられると悔しさもある。
 僕たちもいい演奏ができたと思ったからなおさらだ。あいちゃんとキスケはぼろぼろ涙を流していた。

「何度も言っただろ。俺らのパフォーマンスは悪くなかった。ただ相手が上手かっただけだ」
 今でこそ笑っているが、結果が発表されたときはトイチの目も赤くなっていた。泣くのをこらえていたに違いない。
「俺らは何が足りなかったんですかね……」
 キスケが手元のカプチーノに次から次へと角砂糖を投入していく。
「来年も出よう。まだあと一年ある。足りないものはこれから考えて、補っていこう。な?」
 コーヒーカップを片手に、トイチが僕たちを励ます。
「そうよキスケくん」翠ちゃんも続く。「結果を受け止めるのは大事だけど、切り替えていかないと」
「そうですね。次は文化祭だから、もっと気楽にいきたいですね」
 キスケがカプチーノを一気に飲んだ。
 すると、珍しくここまで言葉を発していなかったあいちゃんが、消え入りそうな声で「あのさ……」と切り出した。
 彼女の口から発せられたのは、思いがけない言葉だった。

「……私、palette辞めたい」
 
 
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