
BOOTHなどで販売している小説作品『ぺるそな@ハイドアンドシーク』のサンプルです。
前 → 『ぺるそな@ハイドアンドシーク』第2章 伊達マスク@はじめまして ①
最初 → 『ぺるそな@ハイドアンドシーク』プロローグ かくれんぼ@もういいかい
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◆ 第2章 伊達マスク@はじめまして ②
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初めて会ったとき、朝陽のことは「おとなりさん」程度の認識だった。
4歳の頃、朝陽の家族が私の実家の隣に引っ越してきた。同い年の女の子がいる、とは聞いていたけど、当時は頻繁に遊ぶ仲ではなかった。
あれは小学校2年生の頃だ。
当時の私はまだマスクもメガネも使っていなかった。
小学校に上がると、私は痣が理由でからかわれることがよくあった。
あるとき、当時のクラスのやんちゃな男子グループの奴らが、私にちょっかいを出したり物を隠したりすることが続いた。小学校低学年だから今思えばかわいいものではあったけど、いじめといってもよかったかもしれない。
その日、担任の先生が例の男子たちをこっぴどく叱りつけた。それだけならまだよかったものの、帰りの会で先生はみんなの前でこの件について話をしたのだ。西野さんはブスじゃありませんとか、どんな顔でも仲よくしなきゃダメですとか、そんなことを言っていたと思う。
私は傷口に泥を塗られた気分になった。
最終的には、私が教室の前に立たされて、私をいじめていた連中がみんなの前で私にゴメンナサイを言わされる、なんてことにまで発展した。
こんなことをされても、私はちっとも嬉しくなかった。ここまでくると私までみんなの前で恥をかかされている気がして、一刻も早く終わってほしかった。
そんな帰りの会が終わったあと、今度は私と先生が一対一で話をすることになった。
「西野さん、おうちの人に聞いたわ。それ、生まれつきのものなんでしょう? だったら堂々としてればいいの。その顔に生まれたこと、恥ずかしがることなんてない」
そう言われて、なんだかすごくモヤモヤしたのを覚えている。たしかにその通りなんだけど、先生は私を慰めるために言ったんだろうけど。
話を聞きながら、私はずっと泣いていた。
先生の話から解放されて廊下に出ると、当時隣のクラスだった朝陽の姿があった。
「朝陽ちゃん」
「夕凪ちゃん」
目が合って、私たちは同時に声を漏らした。
痣だけでなく泣き腫らした顔まで見られて、私はつい目を逸らしてしまった。
ほかのみんなはすでに帰ってしまったのか、教室の近くには私と朝陽以外は誰もいなかった。朝陽もこれから帰るところのようだった。
「夕凪ちゃん、あのさ」
再び視線を向けると、朝陽は背負っていたランドセルを体の前に持ってきて、何やら中身を探っていた。
これ、と朝陽が差し出したのは、包装された1枚のマスクだった。
「……マスク?」
「給食当番で使うから、持ってきてた。これは予備の1枚」
意図をはかりかねて、私は朝陽が持っているマスクをじっと見ているしかできなかった。
「さっき、先生が話してるのが聞こえたんだけど」朝陽は私の口元の痣を指さした。「もしそれで困ってるなら、マスクしてれば気にならないかな、って」
はっとなった。そうだ、隠してれば気にならないかも。そう思って、私は朝陽の手からマスクを受け取った。
袋を開いて、マスクをつけてみる。
守ってもらえた、と思った。
男子にからかわれてクラスみんなの前で恥ずかしい目に遭わされて、敵だらけだと思っていた世界から、そっと守られたような、そんな感覚だった。
「ありがと、朝陽」
「どういたしまして」朝陽はランドセルを背負い直した。「じゃ、一緒に帰ろう、夕凪」
朝陽が笑顔で差し出した手を、私は強く握った。
泣いてばかりだった私は、ここでようやく笑えた気がした。
その日、私たちは手をつないで家に帰った。いつもなら気になってしかたがない視線が、このときは気にならなかった。
この日から、私はマスクを着用するようになった。
翌年、私と朝陽は同じクラスになった。一緒に過ごす時間が増え、朝陽との距離が一気に縮まったと思う。余談だけど、小学校から高校まで、朝陽と同じクラスになったのはこの一年間だけだった。
小学生の頃から朝陽は明るく人気者で、朝陽のまわりにはいつも人が集まっていた。
私はというと、やっぱりどこか腫れもの扱いをされることが多く、はっきりと拒絶はされないけど暗に遠ざけられたり、どうしてアイツなんかが朝陽と一緒にいるんだ、みたいな感じで陰口を叩かれたりすることも往々にしてあった。
だけど、そんなことを気にする様子もなく朝陽は私に接してくれた。それが嬉しかったし、誇らしかったし、何より安心させてくれた。
学校が嫌になったこともあったけど、そんなときは朝陽の家に遊びに行った。ときにはお泊まりもさせてもらった。
勉強を教え合ったおかげか、二人で同じ高校に合格することができた。
これも余談だけど、高2くらいの頃に朝陽がオシャレに目覚め、小顔効果とか言って大きめのメガネを愛用していた時期があった。私が伊達メガネをかけるようになったのはその影響を受けてのものだ。ちなみに、今は朝陽はメガネをかけていない。
さすがに高校を出たら離れるかな、とも思ったけど、二人とも東京の大学に進むとわかり、じゃあルームシェアしようよ、という話になった。
ところが紹介される部屋が二人で住むには広すぎる物件ばかりで、しかたなく単身世帯用の物件を探すことになった。すると、たまたま見つけたマンションに運よく隣同士の空き部屋があったのだった。
そうして、東京に二人で住み始めたのが4年前。
私たちが《シーハイ》を知ったのもその年だった。
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