2020/01/02

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【小説(サンプル)】『ぺるそな@ハイドアンドシーク』第1章 朝夕@スイッチング ①

 
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◆ 第1章 朝夕@スイッチング ①

「T大学から参りました、西野(にしの)夕凪(ゆうな)です。本日はよろしくお願いします」
 私は目の前の女性に頭を下げた。向こうも「よろしくお願いします」と会釈を返す。
 3月。学年で言えば今は大学3年と4年の間のどっちつかずなところ。春休みなので授業はない。だけど、時期としては就職活動が本格化する頃だ。
 私は大学の就職支援センターがおこなっている模擬面接を受けていた。
 3年間通っていたけど入ったことのない小部屋で、アドバイザーの女性と向かい合って座っている。彼女は三十代前半くらいで、長谷川(はせがわ)と名乗っていた。ストライプの入った白いシャツに紺のジャケットという、パリッとした服装だった。
 私は堅苦しいリクルートスーツと履き慣れないパンプス、さらに就活用ヘアスタイルに就活用メイクというやつで顔を作っている。まあいい。今はそういう仮面をつける時間だ。
 そしてメイクで隠し切れないものは、マスクの下に隠している。もっとも、事前に提出した履歴書代わりの書類には、私の素顔が写った写真が貼ってあるんだけど。
 学生時代にがんばったことや、会社に入ってやりたいこと、自分の強みや弱みなどとについて訊かれ、私はそれらに答えたり答えられなかったりした。
「最後に何かご質問などはありますか?」
 模擬面接が終わろうという頃、長谷川さんが尋ねてきた。私は、前もって訊こうと思っていた質問を投げることにした。
「えっと……」右手で口元に軽く触れながら言った。「普段からマスクをつけてるんですけど、実際に面接するときにもつけてていいですか?」
 長谷川さんは私の顔とその仕草を見て、質問の意図を察したようだった。
「マスクだから落とされる、ということはないとは思いますが、外したほうが印象はいいと思います。マスクをしていると声もこもってしまいますし、中には話し相手がマスクを着用していることを良く思わない方もいらっしゃいますので。それから仕事をするうえでも、社外のお客様、特にご年配の方と接する場面では外したほうが無難かと思います」
 そう言われて私は、模擬面接の間はマスクを外してみることにした。
 息はしやすくなったはずなのに、水の中でずっと息を止めているような、このままだと窒息してしまいそうな、妙な違和感を覚えた。

 ちょっと自己分析が足りていないですね、という指摘を受けて、模擬面接の時間は終わった。長谷川さんいわく、面接での質問というのはほとんどが「この人はどんな人物なのか」を知るためのものらしい。帰り際、自分の経験や長所と短所などをまとめるワークシートみたいなものも渡された。
 指摘はごもっともだった。素直じゃないという自覚はある。
 傷つかないために、私は多くの感情を覆い隠してきた。そうしなければ生きてこれなかった。そうしないと心が壊れてしまいそうだった。それだけだった。
 だけど気がつけば、自分が何を考えているのかさえよくわからなくなっていた。だから私は、本当の〝わたし〟を見つけないといけない。早く見つけなきゃ、ひとりぼっちになってしまう。
 ──小さい頃、隠れ続けていたら公園に一人取り残されてしまった、いつかのかくれんぼみたいに。

 外に出ると真っ先に、ポケットに入れていたマスクをつけた。
 ふぅ、と一つ息を吐く。やっと水から顔を出せた心持ちになった。マスクをしているほうが呼吸が楽に感じる、なんて、普通の人にはわからない感覚だろう。
 要するに、マスクがないと安心できないのだ。
 帰りの電車の中でバッグからスマホを取り出すと、朝陽(あさひ)からのラインが来ていた。

  > 思ったより早く終わった。そっち行っていい?

 数分前に届いたものだった。「そっち」というのが私の部屋を指していることは、長年の付き合いでわかっている。

  > 私もこれから帰る。先に上がってていいよ

 私が返信すると、すぐに既読がついた。私たちの間でこういうときはたいてい、「了解」の意味だ。

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次 → 『ぺるそな@ハイドアンドシーク』第1章 朝夕@スイッチング ②
 
 

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