2018/11/02

カテゴリー: 作品, 小説
タグ: , , ,

Sponsered Link



【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第28章

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ポートレイト~ 第27章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
 
【Film.2 ~ポートレイト~】
 
 
◆ 第28章

 高校に入ってからというもの、中学まではあれほど簡単にとれていたテストの点数がすっかり低迷してしまっていた。
 誰に指摘されるでもなく、僕は悟った。
 中学時代にテストでいい点が取れたのも、優等生の体裁を保てていたのも、すべて絵梨奈(えりな)が側にいたからだということを。

 僕は次第に、自分の〝正しさ〟に自信をもてなくなっていた。

 自主性を重んじる校風とそれを象徴するような私服登校、というのがさらに追い撃ちをかけていたと思う。
 自立が求められる環境で、はりぼての優等生だった僕はたちまち化けの皮を剥がされた。
 規則に縛られるストレスはないが、逆に誰も自分の道を示してくれない。自分が今まっとうな道の上にいるのか、それとも外れてしまっているのかさえわからないのだ。

  *

 3年生に上がる頃に文系と理系に分かれたが、僕は理系を選んだ。
 理系科目がとりわけ得意だったわけではない。ただ、こと数学に関しては、答えが一意に定まるものだと考えていた。証明問題だと示し方は何通りも存在するが、それでも最終的に導く結論は一つ。それが僕の肌に合っていると思った。
 つまり、〝正しさ〟に悩むことがないのだ。
 だからといって数学の問題が解けるようになるかというと、決してそんなことはないのだが。
 むしろ文系よりも学ぶ内容が多く、しかも数学や物理の成績は一向に伸びず、理系を選んだことを後悔したこともある。
 3年生の始め頃に作詞と作曲に苦心しすぎたのが、成績の下降に拍車をかけた。あのときもう少し時間を上手く使えたら、行ける大学、ひいてはその後の人生も少しは変わったのかもしれない。

 進路について、僕がこれといって目指しているところはないと言うと、当時の担任の先生は、じゃあ目標だけでも高くもったほうがいいと、僕のレベルにはまるでそぐわない国立大学を勧めてきた。
 僕は言い返せるだけのものを何ももっていなかった。それに先生は僕の可能性を信じていたらしいし、僕も先生の言うことは〝正しい〟と思った。なので、なんとかその大学に行きたいんだと自分に暗示をかけることにした。
 無論、そうしたところで簡単に成績が上がるわけがない。
 むしろ凄まじい負け癖がついたといっていいだろう。模試で0点をとっても何とも思わなくなるくらいには。

 センター試験の結果は悲惨なものだった。
 しかしそこでようやく、自分はどこの大学にも入れないのではないか、という危機感が生まれた。
 それがせめてもの救いだったかもしれない。
 結果として、第一志望にしていた国立大学には落ちたが(想定内だったので悔しさは微塵も感じなかった)、なんとか私立大学には引っかかった。

  *

 振り返ってみれば、夏休みが明けてからpalette(パレット)のメンバーとはめっきり会わなくなった。
 ときどき廊下ですれ違うことはあるが、それでも会話らしい会話はしない。もっとも、僕以外(あいちゃんと(みどり)ちゃんでとか、トイチとキスケでとか)で話をすることはあったらしいが。
 文化祭ライブには初めから出ようとするべきではなかったのかもしれない。そもそも僕はpaletteに入ること自体が〝正しくなかった〟のかもしれないとさえ思える。
 本当に僕と彼らは、音楽を通じてつながっていただけだったのだ。
 それを悪いことだとは思わなかった。

 卒業式の日、同じクラスだったあいちゃんとは一緒に写真を撮ったが、それだけだった。
 彼らがどこの大学に進学するのかとか、4月から一人暮らしを始めるのかとか、そういったことを僕は何一つ知らなかった。
 わざわざ聞くほどのことでもない、とも思っていた。

  *

 楽しかったこと。心のままに生きること。
 それらは果たして〝正しかった〟のか?
 そんな疑問の残る3年間だった。

 高校生活の3年間は人格形成に大きな影響を与えるといわれるが、たしかに僕の人生にとっても、この3年間がもたらした影響は大きかったかもしれない。
 いい意味でも、悪い意味でも。
 
 
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
 
次 → 『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第29章
 
 

カテゴリー: 作品, 小説
タグ: , , ,

このエントリーをはてなブックマークに追加


Sponsered Link




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


閲覧いただきまして、ありがとうございます。

当サイト管理人、〝小説家兼絵描き兼ラジドラ脚本家兼音声編集者のニート〟の
脳内航海士(のうないこうかいし)と申します。
生きる自信も死ぬ勇気もありませんがよろしくお願いします。


『脳内航海』は、脳内航海士の創作&ブログサイトです。
小説、イラスト、ラジオドラマなど、あまり形式にとらわれずに作っていきたいと思っています。


=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

【お知らせ】

作品の通販を始めました。

購入はこちらからどうぞ
BOOTH『脳内航海士の作品売場』

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

作品はこちら
脳内航海士の作品一覧


Twitterもやっています。
たいしたことは呟きませんが、よろしければフォローお願い申し上げます。
■ Twitter:@Ju1yWhite__


死にたいとは思わなかったけれど、かといって生きることに執着することもできず、
自分に対する慰めと世界に対する答え合わせとしてこのような場を作りました。
ここで綴る言葉の中に、あなたに少しでも響くものがあれば幸いです。


初めての方は、まずこちらをお読みください。
『【はじめに】航海日誌の航海図』


自分なりの創作のヒントやメイキング、作品の解説なども載せていければと考えています。
『作品について ~創作の羅針盤~』


ざっくりとした自己紹介や、『脳内航海』の由来など
『自己紹介 ~脳内航海士って何者?~』

ニートになるまでの詳しい話
『出航前夜 その1 ~僕がニートになるまでの話~』

当サイト立ち上げの経緯や野望など
『出航前夜 その2 ~ニートが月収200万円を夢見た話~』

ブログ記事カテゴリー一覧
『脳内航海士の航海日誌』カテゴリー一覧


お問い合わせは お問い合わせフォーム もしくはメールにてお願いします。
■ Mail:bra.92in.cruise.0717●gmail.com
 (お手数ですが、● を @ に変えていただきますようお願い申し上げます)


2018年3月3日、サイトおよびブログを移転しました。
お手数ですが、新URLをブックマークしていただきますようお願いします。

Web『脳内航海』
 旧URL:http://braincruise.web.fc2.com/top.html
 新URL:https://braincruise.net/

ブログ『脳内航海士の航海日誌』
 旧URL:http://cruisediary.blog.fc2.com/
 新URL:https://braincruise.net/blog


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



このエントリーをはてなブックマークに追加


Sponsered Link



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です