2018/10/24

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【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第25章

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ポートレイト~ 第24章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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【Film.2 ~ポートレイト~】
 
 
◆ 第25章

 卒業ライブの翌日、僕の携帯電話に、絵梨奈(えりな)からメールが届いた。

  昨日はライブ行けなくてごめんなさい。
  お姉ちゃんから聞いたかもしれないけど、
  実は、ちょっと長い間入院してました。
  病院にいる間に3学期が終わっちゃったな笑

  今日無事に退院したので安心してください。
  4月からは普通に学校に通えるよ。
  ほんとはもう一日早く退院したかったけどね笑

  ライブ前に心配かけたくなかったから
  (みなと)には伝えなかったんだけど、
  余計に心配かけちゃったかな?
  ごめんなさい。

  その代わり、最後の大会には絶対行きます。
  7月の最初の日曜日だよね?
  その日は絶対空けておく。

 まだ心配な部分はあったが、無事退院したということでひとまず安心した。
 何より、絵梨奈のほうからメールをしてくれたことに僕は飛び上がって喜びたくなった。
 まして最後の大会を見に来るというのならなおさらだ。

  *

 3年生にもなると、いよいよ授業の内容が高度になり進みも速くなってくる。加えて、模試などもこれまで以上に頻繁に受けさせられた。

 2年生の2学期から、トイチは軽音部の部長、キスケは生徒会役員を務めていた。さらに演奏の技術が高く作曲もできる彼らは、ほかのバンドのサポートに回ることもたびたびあった。
 あいちゃんと(みどり)ちゃんは、かけもちしている部活や委員会が忙しくなってきているようだった。palette(パレット)としては作詞やコーラスも担当している二人だが、スケジュールが合わずスタジオ練習に来られないという日も増えていた。
 このような状況の中で、僕たちは最後の大会に臨まなければならなかった。

 気がつけば、僕だけが何もしていなかった。
 せめて4人の負担を減らすことはできないものか、と考えるのはまあ自然なことではないだろうか。
 僕の場合、それだけではなかった。
 今度こそは絵梨奈が見に来るのだ。なのにこのままでいいのか、という気持ちがあった。彼女が初めて来てくれた卒業ライブのときから、僕は何一つ変わっていないような気がしたのだ。

 paletteとしては、前年が全国大会の予備選止まりだったので、次の目標は当然、全国の決勝に進むこととなる。
 どうすれば最後の大会で、今までで一番のものを見せられるだろうか。

 考えた末に、僕は二つの策を思いついた。
 一つはトイチたちの負担を減らし、かつ絵梨奈に今の僕を見せつける手段。
 そしてもう一つは、大会で勝つための秘策だ。

 少々無茶かもしれないが、実現するにはこれしかない、と思った。
 絵梨奈は体を壊すほど思いつめていたというのだ。
 僕も前のめりになれなくてどうする。

  *

 新学期が始まってすぐの頃、僕は先述の二つの策を提案し、そして実行することになった。

 大会のための秘策については、伏せるほどのことではないかもしれないが、まだここでは書かないでおこう。
 もう一つの策については、種明かしをしてしまえば、僕が作詞と作曲をすることだ。
 ところが、これが想像以上に困難を極めた。

 2年間、僕はいろいろなバンドのいろいろな曲を聴いてきた。トイチやキスケが曲を作るのも見てきた。だから自分にもできるような気がしたし、やってやれないことはないと思った。
 しかし作れそうだと思えたからといって、実際に作れるわけではない。ピアノの独奏曲を作るのともわけが違う。

 アレンジはこれまで通り全員でやる前提だった。僕はあくまでメロディとコードだけ作ればいい。
 そうはいっても、これは学校の勉強とは違うのだ。答えがあるわけではない。テストでは答えを導ければそれで終わりだが、作曲には辿り着くべき答えがそもそも存在しない。

 詞についても同様だ。この新曲は──特に詞に関しては──絵梨奈に伝えるつもりで書いていた。だからこそ難航してしまう。
 言葉が浮かばないのではない。むしろ逆だ。絵梨奈のことを意識するとどうしても言葉があふれすぎてしまう。メールを数百件溜めてしまうくらいだ。4分程度の曲に収めるのは無理があったかもしれない。

 悩んでいるだけで何も形にならない。ただ時間ばかりが過ぎていく。
 他人の模倣ばかりしてきたような僕にとって、創作というのは根本的に不向きな行為だったのかもしれないな、と思った。
 しかし、なんとしても作らなければ、という気持ちもあった。

  *

 5月の終わり頃までは例の秘策のための練習をしていたので、曲ができていなくてもなんとかごまかせた。
 だがそちらが仕上がってくると、いよいよ僕の新曲は、という話になってくる。

 そろそろ持ってきてくれ、とトイチに言われたのは、県大会をちょうど1カ月後に控えた日のスタジオ練習のときだった。
 いわく、このまま曲ができなかったら今度の大会は既存の曲で出る、と。
 毎回ではないにせよ、大会や文化祭、卒業ライブなどといった節目には必ず新曲を用意してきていた。これがpaletteのやり方だと思っていた。

「そんなの、僕たちのやり方じゃない」
 僕はとっさに反論した。
「曲ができなくて出られませんでしたって言うつもりかよ? 出られなくなるよりはましだろ!」
 トイチが語気を強める。
「それに、曲ができたら終わりじゃない。作詞は? アレンジは? 練習期間は? そこまで考えないと、大会で通用する曲なんてできねぇぞ」

 以前も新曲の制作をハードスケジュールの中で進めたことはあったが、そのときはほかの4人もpalette以外の活動がまだそれほど忙しくない時期だったし、トイチがすでに曲は作っていたから方向性は見えていた。
 しかし今回は、曲の原型すらできていない。

 トイチが締切として提示したのは、県大会2週間前の月曜日だった。この日のスタジオ練習までに曲ができなければ新曲は演奏しない、という条件で、一応作曲の継続は認めてくれた。
 僕は何も言わず従うしかなかった。

 うなだれる僕を見かねたのか、トイチが今度は小さくため息をついた。
「もっと頼ってくれって言ってんだ。ゴーサインを出したのは俺らなんだしな」
「えっ?」
「苦しいかもしれないけど、それを一人で背負うなよ。苦しみを分け合わなかったら、そのあとに来る喜びも分かち合えなくなっちまうぞ?」
 予想外の言葉だった。
 返す言葉に迷っていると、キスケ、翠ちゃん、あいちゃんが続けて言った。
「サビだけとかAメロだけとか、すごくざっくりしたものでいいから、何か作ってみてください。雛型さえあれば意見を出し合うことはできるでしょうし、アレンジは俺たちでどうとでもします」
「湊くんは、私たちを気遣って作曲を買って出てくれたんだよね? それは嬉しいんだけど、そのせいで湊くんが潰れちゃったら、何の意味もない」
「私は曲については何もアドバイスできないかもしれないけど、作詞なら協力できると思う。湊の作る曲、楽しみにしてる」
 過去にも幾度となく感じたが、やはり僕は運がいいのだろう。
 こうなったらもう、とにかくやるしかない。
 曲ができず後悔したままステージに立ちたくなかったし、4人の優しさを無駄にしたくなかった。

  *

 とはいえ頼るといっても、何をどう頼ればいいのか、うまく言葉にすることができない。
 なので、とにかく形ばかりのものでもこしらえるしかないと思った。どんな詞をつけるかはひとまず置いておき、曲だけ作ることを優先することにした。
 録音のための機材は前もってトイチに借りていた。僕はぼんやりと思い描いていたイメージからなんとかひねり出したコードとメロディをレコーダーに吹き込んだ。
 これを次のスタジオ練習の日に持っていった。
 その後数回のスタジオ練習では、本格的に曲作りをすることになった。

 トイチがドラムで核となるリズムを刻み、ときには僕のシンセを弾いて、こうしたほうがいいんじゃないかと意見を出す。
 キスケは一つ一つのフレーズでさまざまな音色や指使いを試し、僕では思いもしなかった彩りを曲に与える。
 翠ちゃんは彼らの作る音に臨機応変に対応しつつ、僕の意図を汲んだかのようなベースラインを合わせてくる。

 こうして、トイチが指定した日までにどうにか曲だけは形になった。
 僕が作った段階では、正直まったく満足のいくものではなかった。しかしそんな曲でもしっかり形にしてしまうのだから、さすがpaletteだと思った。

 ひととおり演奏してみたところで、あいちゃんが「あのさ……」と切り出した。
「大サビっていうんだっけ? 曲の最後のほうでちょっと雰囲気が変わったり、一瞬静かになったりするパート。あれ入れられないかな?」
「そうなるとまた前後の部分も練り直さなきゃいけないんだけどな……」
 トイチが頭を掻き、難色を示す。
「せっかく湊が作ってくれた曲だからさ、キーボードの見せ場が作れないかなと思ってたんだけど……、そうだよね、みんなに負担かけちゃうよね」
 あいちゃんが引き下がろうとするのを、しかしトイチは前言を撤回して遮った。
「いや、ここは湊に任せよう。湊的にはどうだ?」
 悪くない、と思った。
 絵梨奈に聴かせるための曲で、僕の見せ場というのはむしろ望むところだ。
 僕は賛成することにした。

 そんなわけで、間奏と最後のサビの間に、当初の予定にはなかったいわゆる大サビを挿入することになった。それに伴い、僕には新たなメロディとコードを作るという宿題が課せられた。

  *

 その日の帰り道。
 いつものようにあいちゃんと歩いて帰る。まだ太陽は沈み切っておらず、僕たちの足元からは長い影が伸びていた。
 6月の末。これからさらに日は長く、そして暑さは増していくだろう。
 高校生活も、気づけば最後の夏を迎えようとしていた。

「ごめんね、湊の負担を増やすようなこと言っちゃって」
 あいちゃんは気まずそうに言ったが、僕はさして問題視していなかった。まったくのゼロから曲を生み出すわけではないので、今度はすんなり作れる気がしたのだ。
「いいよ。むしろ、キーボードの見せ場を提案してくれてありがとう」
 僕の言葉に、「湊ってそんなに目立ちたがりだったっけ?」とあいちゃん。
 ──いや、そういうわけじゃないんだけど。

 目を逸らした先にあるのは、僕としては自分が生まれ育った街の、見慣れた風景だ。
 高校入学とともにこの街にやってきたあいちゃんは、環境に慣れただろうか。
 そして高校入学とともにこの街を離れた絵梨奈は、どんな生活をしているのだろうか。

「──僕としても、演奏を見てもらいたい人がいるんだ」
「誰? いつかのレコード会社の人?」
 言うまでもなく、それは絵梨奈のことだ。
 しかし高校では誰にも絵梨奈のことは話していないし、当然あいちゃんも彼女のことは知らないはずだ。絵梨奈のことは話すときっとややこしくなるし話してもしょうがないとも思った。
 僕は適当にはぐらかした。あいちゃんも、それ以上深く訊いてくることはなかった。
 ちなみに、あいちゃんの言ったレコード会社の人というのが去年の全国大会の懇親会で会った萩谷さんだと気がつくまでには十数秒かかった。やはり僕はスカウトなどには興味がないらしい。

「今月の頭にね、放送部の大会があったんだけど」
 今度はあいちゃんが呟いた。
「大会?」と僕が尋ねると、放送部にも大会があること、そして最後の大会が先日あったことをあいちゃんは話した。
 言われて思い出したが、そういえばあいちゃんをはじめ放送部員が丸一日いなかったことがあった(高3では僕はあいちゃんと同じクラスだった)。その日が大会だったらしい。
「放送の大会って、アナウンスと朗読と、あと番組部門があるんだけど、今年はどの部門でもうちは全国に進めなくてさ」
 放送でも全国進めれば2回東京に行けたんだけどね、と言ってあいちゃんは小さく笑った。
「だから軽音のほうでは、絶対全国行きたい。放送のリベンジがしたい」
 今は表に出していないが、きっと悔しかったのだろう、と思った。バンドとしての活動以上に放送部の活動に熱心に取り組んでいた彼女の姿を、僕は曲がりなりにも見てきていたつもりだ。
 そうだね、と僕は短く答えた。この言葉が〝正しい〟ものだったかどうかはわからないが。

 しかし僕としても、今度の大会はある意味リベンジだ。
 全国の決勝に進むというのももちろんあるが、卒業ライブに来られなかった絵梨奈が、今度こそ見に来るのだ。彼女の期待を裏切るようなものを聴かせるわけにはいかない。

  *

 思っていたとおり、大サビは比較的楽に作れた。トイチやキスケや翠ちゃんが作ってくれたもののおかげだ。
 そしてこの部分が増えたので、入れたくても入れられなかった言葉を差し入れることができた。あいちゃんが提案してくれたおかげだ。
 演奏時間は少し長くなったが、たぶん大会の規定時間にはぎりぎり収まるだろう。

 詞ができたのと大サビを作ったのとで次の練習の日はほぼ新曲だけに時間を費やしてしまった(それだけ大サビ前後は個人的に譲りたくない部分でもあった)が、ついに曲が完成した。
 本番1週間前のことだった。

 結果としては、僕が最初に思い描いていたイメージとはだいぶかけ離れた曲に仕上がった。
 これはもはや僕の曲ではない。しかし、それでいいと思った。僕だけではこの曲は完成しなかっただろう。
 最終的に4人に負担をかけることになってしまったが、最後の大会を前にしてようやく、paletteの5人全員の色が重なった曲ができた気がした。
 絵梨奈に届ける曲を絵梨奈のことを知らない4人と一緒に作り上げるというのも、このときの僕はおもしろいと思えた。

 そしていよいよ、僕たちは大会の日を迎えた。
 泣いても笑っても、これが最後の大会だ。
 
 
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