2018/10/09

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【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第23章 ②

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ポートレイト~ 第23章 ①
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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【Film.2 ~ポートレイト~】
 
 
◆ 第23章 ②

 彼は先ほどまでトイチがいた席に座ってきた。
鹿目(かなめ)くん、来てたんだ」と僕。
 鹿目くんと(みどり)ちゃんは、お互い顔と名前は知っていたようだが話すのは初めてらしく、自己紹介をし合っていた。

 話が一区切りつくと、鹿目くんは自分の席から持ってきたのであろうオレンジジュースを一口飲んだ。
 ちょうどいい、と思って、僕から話題を切り出してみることにした。
「さっき、レコード会社の人と話しててさ。鹿目くんは、声かけられたりとかって、したことある?」
 萩谷(はぎや)さんのような人が来ているとなると、ホワイトアウト、特に鹿目くんほどの実力者であればスカウトの一つくらい来てもおかしくないだろう、と思った。

「実は、去年全国行ったときに、レコード会社の人から、うちからデビューしないかって持ちかけられたんだ」
「そうだったの?」
 初耳だった。
「でも、デビューしてたらミューブレには出られないよね?」
 翠ちゃんが尋ねる。
 そうだ。ミューブレはアマチュア限定の大会のはず。ということは。
「うん、断った。デビューさせたかったのは僕だけだったみたいで、別のバンドの人と組んでやってくれって話だった。僕が、高校を卒業するまではこのメンバーでやらせてくれって粘ったら、交渉は決裂したよ」
 鹿目くんはそう言って、テーブルの上の冷めきったフライドポテトに手を伸ばした。トイチかキスケが取ってきたものの残りだと思うが、何も言わないことにした。

「デビューするなら、あのメンバーじゃなきゃ駄目ってこと?」
「そうだね。デビューするなら、ね」
 僕が投げかけた言葉をなぞり、少し考えるように伏し目がちになる鹿目くん。
「僕たちは中学時代に同級生4人でホワイトアウトを結成したんだけどさ、僕だけは先輩のバンドのサポートとして駆り出されることが多かったんだ」
 そういえば、彼は中3の頃に高校生と組んでミューブレに出ていたと、以前翠ちゃんが話していた。
「だけど僕としてはずっと、あの4人でライブがしたいと思ってた。高校になってやっと、ホワイトアウトとして満足にライブができるようになった。大会にも出れた。だからせめて高校の3年間は、このメンバーでバンドをやりたいんだ」
 鹿目くんが一呼吸置いたところで、僕はウーロン茶で口の中を潤した。

「プロになることを考えたら、今すぐにでもデビューの誘いをのんだほうがいいんだろうけどね。現役高校生がメジャーデビューってだけで箔はつくし、この業界に入るなら若いに越したことはない」
「鹿目くんなら、プロになれると思うよ。高校卒業してからでも……」
「それはホワイトアウトの奴らからも言われてる」
 僕の言葉を遮るように言うと、鹿目くんは困ったように笑った。
「……だけどさ、僕は音楽の道で生きてくかどうか、実は迷ってるんだよね」

 しばらく黙っていた翠ちゃんが口を開く。
「迷うのは、それだけ鹿目くんがホワイトアウトを大切にしてるからなんじゃない? 立派なことだと思う」
「ありがとう。……だからさ、デビューとかを考えるよりも、今は今しかできない音楽を、僕は楽しみたいんだ」

 それから再び明るい調子に戻った鹿目くんは、皿に残っていた唐揚げやペンネやポテトサラダを少しずつつまんで、別のテーブルに移っていった。

「しっかりした考えがあるんだね、鹿目くんって」と翠ちゃん。
 僕は「そうだね」と同意した。
 自己が空虚で真っ黒な僕とは、えらい違いだな、と思った。

「──引っかかるもの、若さと素直さ、ね」
 ぽつりと、翠ちゃんが呟いたような気がした。

「え?」と僕が尋ねるより早く、翠ちゃんは席を立ち、またビュッフェコーナーへと向かった。
 ……一体、どれだけ食べるのだろう。

  *

 翌朝、僕たちは学校に行くよりも早い時間に宿泊先のホテルをチェックアウトし、決勝の会場へと向かった。

 僕たちが到着した頃、会場の前にはすでに多くの出演者が集結していた。
 予備選では自分たちと同じ会場に当たったバンドしか見なかったし、懇親会も全員が参加していたわけではなかったので、ここにきて改めて、こんなに人がいたのかと驚かされた。

 大会スタッフが各所に立ち、僕たちに紙を配っている。
 あたりには、その紙を手に歓喜に震える人もいれば涙を流す人もいる。もっとも、前者はごく少数だったが。

 何を隠そう、僕たちがここで受け取るのは、決勝大会のプログラム。
 すなわち、これに名前が載っているバンドがファイナリストというわけだ。

 トイチがいの一番にスタッフからプログラムを受け取る。
 僕たちは一斉に、食らいつくように紙面を凝視した。

 決勝進出は10組。
 そこに『palette(パレット)』の文字は──。

「……ない…………」

 消え入りそうな声で、あいちゃんが言った。無意識のうちに口から漏れたような声だった。

「駄目でしたか……」言葉を絞り出し、俯くキスケ。
「くそっ!」珍しく、感情をむき出しにするトイチ。
「そう……」翠ちゃんが、噛み締めるように呟いた。

 紙面には、バンド名と出演時間が表になってまとめられていた。演奏する順に、上から記載されている。
 見落としているんじゃないか。見間違いだったんじゃないか。そう思って、何度もプログラムの隅から隅まで注視した。僕以外も同じだっただろう。
 しかし、何一つ変わることなどない。
 僕は駄目元で、近くにいたスタッフからもう一枚プログラム表をもらった。だが言うまでもなく、書かれている内容は同じだった。

 眼鏡を外して涙をぬぐうあいちゃんの肩を、翠ちゃんが抱きしめる。
 トイチが目に涙を浮かべているところなんて、想像したこともなかった。
 キスケは唇を噛んで、必死に感情を抑えつけているようだった。今回に関しては、一番悔しいのは彼かもしれない。

 僕はというと、ほんのわずかではあるが、あぁやっぱり、という気持ちになっていた。
 実を言うと僕は、懇親会で萩谷さんの言葉を聞いたときから、この結末は薄々予想ができてしまっていた。
 審査には関わっていないと言っていたが、もし同じことを審査員も感じていたら、僕たちは決勝には進めていないだろうと思った。
 だから「悔しい」という感情はあっても、涙は流れてこなかった。
 この状況なら涙を流すのが〝正しい〟反応だろう。そうは思いつつも、心の奥の、悲しみを司る根幹のような部分が揺さぶられなかったのだ。

  *

 午後になり、決勝大会は順調に進んでいた。
 決勝の会場は、約1000人を収容できるライブハウス。その大きさは、僕たちが今まで立ってきた舞台の比ではない。
 全国に進んだ人は全員観覧してよいことになっていたので、僕たちはファイナリストたちのパフォーマンスを遠巻きに見ていた。

 ステージの上に、見慣れた4人組が姿を現した。
 そう、鹿目くん率いるホワイトアウトは、決勝にコマを進めていたのだ。
 僕たちにとって、ライバルともいえるバンド。だが彼らのほうがまだ一枚上手だったらしい。
 この大舞台でも小さくまとまることなく、思い切って自分たちの音楽を響かせる彼らは、やはりさすがだと思った。
 しかし、──これはほかの決勝進出者を見ても感じたことだが──僕たちpaletteだって負けてはいないんじゃないか、とも思う。

 ホワイトアウトの出番が終わり、転換に入る。
 ステージが暗転してフロアが少しざわついてきた頃、隣にいた翠ちゃんの声が聞こえた。

「……私たちには、何が足りないんだろう」

 それはほとんど独り言のような囁きだったが、なぜか僕には、僕に投げかけられた質問のようにも思えた。

 彼女も予備選の結果に、僕と同じことを思ったのかもしれない。
 ──あのとき、僕以外では翠ちゃんがただ一人、涙を流していなかった。
 
 
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