2018/10/07

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【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第23章 ①

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ポートレイト~ 第22章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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【Film.2 ~ポートレイト~】
 
 
◆ 第23章 ①

 8月上旬。
 僕は東京の、とある駅にいた。

 早朝に地元を出発して、新幹線で東京駅へ。そこからさらに電車を乗り継いで数十分。この駅から、順調にいけば歩いて5分足らずで目的地に到着するそうだ。

 背中にはシンセサイザー。周辺機器や日用品などを入れた手荷物と合わせると、総重量は10キロ以上だ。
 地元でもそうだったが、やはりシンセを背負っていると何もしていなくても汗が噴き出してくる。僕はフェイスタオルで汗をぬぐった。
 しかしそんな汗の煩わしさよりも、今は緊張と興奮のほうが勝っている。

 駅に掲示されている周辺地図で、出るべき出口と、そこから目的地までの道筋を確認する。
 まだ時間には余裕があったが、早めに行っておくことに越したことはないだろう。そう思って歩き出そうとした矢先、聞き覚えのある声が僕を呼んだ。

黒川(くろかわ)くん! おはよう!」
「あ、鹿目(かなめ)くん」
 やってきたのは、ダボダボのTシャツを着てギターケースを背負った、ホワイトアウトの鹿目銀(かなめぎん)くんだった。

  *

「県大会のときはあまり話す時間がなかったね。改めて言うよ。全国進出、おめでとう」
「ありがとう。鹿目くんたちも、2年連続出場、おめでとう」

 僕たちpalette(パレット)は、ホワイトアウトとともに県代表に選ばれた。
 この日、僕たちは全国大会に出場するため、東京を訪れていた。

 ミューブレの全国大会は、二日間に分けて行われる。一日目が予備選、二日目が決勝という流れだ。
 予備選は、全国出場グループを8つのブロックに分け、ブロックごとに別々の会場で審査を行う。全ブロックの審査結果の上位10組が、二日目の決勝にコマを進めるのだ。

「今日、paletteさんは会場どこ?」
 僕が会場の場所を伝えると、「僕たちとは反対方向だ」と鹿目くん。
 事前に聞かされていたことではあったが、同じ県代表のバンド同士が同じ会場に当たることはないようだ。鹿目くんがここにいるのは、会場の最寄り駅が偶然一致していたからにすぎない。

「次paletteさんとやれるのは、決勝のステージだね」
「そうだね」
「じゃ、お互い頑張ろう」

 僕たちは背中を向け合って、それぞれの決戦の舞台へと歩き出した。

  *

 県大会からの1カ月、僕たちはさらなる練習を重ねた。
 原則として、全国大会で演奏するのは地方大会と同じ曲でなければならない。
 僕たちは、精度やアレンジはもちろん、各組ごとにもらった講評と県大会当日のライブ映像を参考に、ステージ上の立ち回りから見直した。

 そして全国大会予備選、僕たちは積み重ねてきたものを遺憾なく発揮できたと思う。僕以外の4人も、十二分にやり切れたようだった。
 最高のものを出せた県大会、それよりもさらにいいパフォーマンスができた感触があった。

 予備選の結果は、翌日に知らされることになる。

  *

 予備選と決勝の間には、懇親会と称されるイベントがあった。
 全国大会の出演者と、運営側の関係者が一堂に会して交流を図る食事会だ。最終決戦前夜の、束の間の休息といったところだろう。
 参加は任意だったが、paletteの5人は全員参加していた。

 広めのレストランを借り切ってのビュッフェだった。店内は、いくつもの四角いテーブルを、4つあるいは6つの椅子が囲んでいる。数百人規模のパーティーにも対応している店らしい。
 内装も食事も高級すぎない感じで、高校生の僕にとっても敷居が高く感じないのはありがたかった。もっとも、運営からすれば経費を抑えているだけなのかもしれない。この懇親会については運営側が大部分の費用を負担しているらしく、僕たちの参加費は1000円だけだった。

 ビュッフェということもあって人の移動が多く、席替えも頻繁に起こっていた。最初の席にずっと座っていた人のほうが少ないくらいだろう。
 僕たちは初め、壁際の4人用テーブルに5人を押し込む形で着席していたが、すぐにトイチとキスケとあいちゃんが、ほかのテーブルの人と話しに行きたいと言って席を移動してしまった。
 僕は(みどり)ちゃんと、店の隅で二人並んで黙々と食べ続けていた。

「湊くん、行かなくていいの?」
「うーん、自分から話しかけるのは苦手で……」
 朝早くから東京に来て、夕方までライブをしていて、僕は思った以上に栄養を欲していたようだ。食事を口に運ぶ手がなかなか止まらない。
「翠ちゃんも、行かないの?」
「私はこういうところでは、交流するより見てたい派かな」
 そう言って、ビュッフェメニューが並べられている一角へと足を運ぶ。これで何度目だろう。ほっそりとした見た目とは裏腹に、たぶん僕以上に食べている。

 気がつくと、各テーブルに様々なバンド、あるいは関係者が入り乱れる形となっていった。
 僕の前の空いた二つの席にも、入れ代わり立ち代わり人がやってきていた。

 翠ちゃんが戻ってきて少しした頃、「すみません」と一人の男性が声をかけてきた。
「ここ、いいですか?」
 席を離れた3人が戻ってくる気配はなさそうだったので、僕たちは先ほどまでキスケが座っていた席にその男性を座らせた。
 ワイシャツの上にグレーのジャケットを羽織ったその人物は萩谷(はぎや)と名乗り、名刺を僕たちに手渡した。
 どうやら、大手レコード会社でマーケティングを担当しているらしい。年齢は30代半ばといったところだろう。柔らかい物腰だが、眼鏡の奥に光る目には鋭さも感じさせる。

 軽く話してくれたところによると、萩谷さんが勤めているのは、大御所の歌手から若手アイドルまで幅広く所属しているレーベルだという。そして萩谷さんは、有力アーティストをこれまでに何組か発掘しているらしい。
 ここで名前の挙がった中では僕がピンとくるアーティストは半分もいなかったが、翠ちゃんはほぼすべて知っていたようで、うまいこと会話を運んでくれた。

「あなたたちは、何ていうバンドです? 二人だけではないですよね?」
 萩谷さんが、話題の照準を僕たちに変えた。
「paletteっていう、5人組のバンドです。私はベースの、宮島翠(みやじまみどり)といいます」
「キーボードの、黒川湊(くろかわみなと)です」
「すみません、ほかのメンバーは席を外していまして……」
「いえ、構いません。こんな場ですし、交流を深めるには絶好の機会です」
 萩谷さんはにっこりと笑った。

「全国大会は毎年拝見しているんです。いやぁ、年々レベルが上がってますね」
「もしかして、審査もされてました?」
 翠ちゃんの質問に、萩谷さんは手をひらひらと振って答える。
「いえ、私は審査には関わっていません。審査のスタッフは、おそらく今日は夜通し協議していると思いますよ」
 そうか、僕たちがこうして食べている裏で。お疲れ様です、と心の中で言っておく。

「palette、でしたよね。今日はどこの会場でやってました?」
 僕が予備選の会場を伝えると、「私も今日そこにいましたよ!」と萩谷さん。
「そうだったんですか?」と目を丸くする翠ちゃんと「曲は、バラードとロックを」と補足する僕を、萩谷さんは今一度まじまじと見た。
「5人組で、ベースが女性でキーボードが男性で……、ああそうだ。ボーカルも女性でしたよね?」
「はい、そうです」と僕が返す。ようやく思い出したらしい。

「男女混成5人組、palette。……そうですね、ボーカルの高い歌唱力を、楽器の4人が支え、引き立てている。高校生としては、すごく上手いと思いました。演奏技術と曲の完成度なら、正直プロにも引けをとらないでしょう」
 萩谷さんの称賛に、胸が熱くなった。
「ありがとうございます」
 僕と翠ちゃんは揃ってお礼を言った。ここまで言ってもらえるとは思ってもみなかった。

 しかしここで萩谷さんは、「ただ……」と言葉を濁した。
「今から話すことは、もしかしたら厳しい言葉に聞こえるかもしれませんが……」
「何でしょう?」と、翠ちゃんが先を促す。
「かえって、その上手さが仇になっているように思います。ただ上手いだけと言いますか、おそらくCDで聴く分にはいいんですが、ライブとなると遊びがなくて、見ていて引っかかるものがない」
 言われて、はっとなった。
 そういえば今、萩谷さんはバンド名を聞いただけでは思い出さなかった。
 ──つまり、初めて見た人の記憶に刻まれていない。インパクトが弱かった、ということだろう。

「審査の基準を私は明確には知りませんが、私が審査員だったら、高校生らしい若さと素直さを求めると思います。誤解を恐れずに言うなら、もっとふざけてというか、ぶち壊してもいいです」
 至極もっともな意見だと思った。しかし、どうすればいいんだろうとも思う。
 萩谷さんは、その方法までは教えてくれなかった。

「繰り返しになりますが、実力は十分にあります。今後が楽しみなバンドです。ぜひ、これからも頑張ってください」
「ありがとうございます」
 翠ちゃんがお礼を述べたので、僕も続いて頭を下げる。
 萩谷さんは、「ほかのメンバーの皆さんにもよろしくお伝えください」と言い残して去っていった。

「……今の話、どう思う?」
 萩谷さんが別のテーブルに移って話を始めた頃、探るかのように翠ちゃんが訊いてきた。
「どうって?」
 意図をはかりかねて僕が訊き返したとき、
「黒川くんじゃん! お疲れ! 朝以来だね!」
 という、陽気な声がした。

 鹿目銀くんだった。
 
 
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