2018/10/05

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【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第22章

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ポートレイト~ 第21章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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【Film.2 ~ポートレイト~】
 
 
◆ 第22章

 卒業ライブから1カ月余り。僕たちは2年生に進級し、気がつけば、palette(パレット)は結成1周年を迎えていた。
 1年が経ったからといって、特に何かをしたわけではない。
 ただそんなある日、スタジオ練習のあとに5人でカフェに入ると、キスケがいつになく真面目な顔で話を切り出したのだった。

「確認なんですけど、俺たちはかっこいいからとかモテたいからとか、そんな理由でバンドやってるんじゃないですよね?」
「どうしたの急に?」
 あいちゃんが、紅茶のガムシロップをかき混ぜる手を止めた。
 僕は卒業ライブの開演直前に、先輩に言われたことを思い出した。
 きっとキスケにも、何か思うところがあったのだろう。

「女性が二人いるのも、見映えとか男受けとか、そんなこと狙ってるわけじゃないですよね?」
「え、そんなふうに思われてたらちょっとショック」
 キスケが重ねて投げかけた問いに、今度は(みどり)ちゃんが返す。
「そういうのは考えたことなかった」
 僕も答える。先の卒業ライブでは絵梨奈(えりな)にキーボードを褒められたが、僕は別に絵梨奈に認めてもらいたくてバンドを始めたわけではない。
「そんなつもりはねぇよ。極端な話、モテたいってだけで演奏が下手だったら、俺は切ってる」
 トイチが言う。ということは一応僕も、バンマスである彼が求める水準は満たしているのだろう。

「それ聞いて安心しました」
 どこかほっとしたようにそう言って、キスケはカプチーノに砂糖を入れた。
「まあ、たしかに高校生でバンドやるっていうと、かっこいいからとかモテたいからとか、そういう人はけっこういたりするよね」
 あいちゃんが言う。あの先輩たちに限らず、そういう人はやはりいるみたいだ。
「だけど、俺らはそうじゃない」
 トイチが、手に持っていたコーヒーカップを置いた。
「ここは全員、そういう認識でいいよな?」
 誰も否定する様子はない。
 僕ももちろん異議はなかったが、ふと、先輩に訊かれたことが頭に蘇った。
 ──じゃあ、なんで僕たちはバンドやってるんだろう?

 ここで、翠ちゃんがキスケに言った。
「でもちょっと意外だった。こう言ったらなんだけど、そういうことはキスケくんが一番考えてそうな気がしてたから」
 たしかに、それはわからなくもない。
 服装こそ華美でないものの、明るい色の髪を立たせていて、僕たちの中では一番ミュージシャン風の見た目をしている。
「よく誤解されるんですけど、ワックス使ってるのは、何もしないとボサボサになるから適当にいじってるだけですし、髪が薄茶色なのも地毛です」
 うんざりしたように、髪の毛の先をいじるキスケ。
「そうだったな」
 トイチがコーヒーを口に含んだ。
「思えばキスケ、中学でギター始めてから、だいぶ変わったよな」
「はい。トイチには感謝してます」

 それからキスケは僕たちに、自らの過去を語ってくれた。

「──俺がギターを始めたのは、強くなりたかったからなんです」

 概要はだいたい次のとおりだ。

  *

 トイチとキスケは二人とも同じ私立中学の出身なのだが、トイチは小学校からの持ち上がりで、キスケは中等部からの外部入学組だった。
 彼らは6年生の頃、同じ塾に通っていた。
 キスケいわくその頃の自分はいじめられがちで、いつも教室の隅に一人でいるような子だったそうだ。身長もまだトイチより一回りほど小さかったらしい。

 中学に上がるまでキスケには楽器の経験はなかったが、その頃から音楽を聴くことは好きだった。
 ただ、自分が好きなバンドは一般的にはあまり知られていないグループばかりで、友人たちと会話が合わせられなかった。周囲から孤立していたのはそのせいもあるらしい。

 塾の近くにレンタルCDショップがあり、キスケはそこによく通っていた。
 ある日キスケがCDを漁っていると、そこにトイチがやってきた。
 キスケが手に取っていたCDはトイチも好きなバンドのものだったそうで、二人はすぐに意気投合した。やっと話の合う人が見つかった、とキスケは言っていた。
 ちなみに当時からお互い顔見知りではあったが、実際に会話をしたのは初めてだったという。トイチは黄助(こうすけ)という名前をずっとキスケと読むのだと勘違いしていたらしく、キスケというあだ名もこのとき生まれたそうだ。

 中学に上がり、キスケが自分と同じ学校に入ってくると、トイチは真っ先に「お前、ギターやれ!」と、キスケにギターを勧めた。
 そして、自分はドラム叩くから、バンドやろうぜ、と。
 ドラムに専念するためトイチは持っていたギターをキスケに譲り、彼に弾き方を教えた。

 あるとき彼らは、トイチの知り合いの先輩のバンドのサポートという形で、ライブに出ることになった。
 そこでキスケは、今まで自分が見たことないような、新しい景色を見たという。
 自分以外の誰かと一つのものを作り上げるという経験は、彼にとっては初めてだった。こんな世界があったのか、と感動したそうだ。
 リフが決まれば曲が盛り上がり、曲が盛り上がれば聴衆も盛り上がる。拍手が起こる。ステージの上でなら自分を強く、大きく見せられる。
 音楽でなら心を通わせられるということを、キスケは知った。

 それ以来ギターにのめり込んだキスケは、瞬く間に上達していった。すぐにトイチを追い抜き、ギターで曲を作れるようにもなった。
 トイチいわく、キスケには天性の音楽センスがあったらしい。中学時代から彼らはゲームセンターにも通うようになったそうだが、音楽系のゲームでキスケの右に出る者はいなかったとか。

 2年生になってからは、彼らは足りないメンバーを自分たちで引き入れてステージに立った。
 キスケは中学の3年間で性格が外交的になり、それに比例するように身長も伸びていったそうだ。

  *

「……まあ、口調だけは直らなかったんですけど」
 キスケが苦笑した。
「そういえば、その口調はどうして?」と翠ちゃん。
「小学校の頃、俺を下僕みたいに扱ってた同級生がいましてね、俺に常に敬語を使うように脅迫してたんですよ。今となってはどうってことない話ですけど、そのときに染みついた癖が結局抜けなくて、中途半端な敬語みたいなのが、ずっと残っちゃってるんです」
 肩をすくめるキスケ。それから一呼吸置いて、こう続けた。
「だけどそんな俺でも、ギター弾いてるときだけは、なんか強くなれるような気がするんですよ」
 目を細めて、キスケは笑った。
「自分の出した音でみんながノってくれるって、最高じゃないですか」

 それから、僕たちに言う。
「次の新曲、俺が作ってもいいですか?」
「大会用の曲か?」とトイチ。
「はい。いい感じのができそうなんです」
「いいけど、どんな曲にするんだ?」
 バラードだとかぶるぞ、とトイチは続けた。
 演奏する2曲のうち1曲は、卒業ライブで披露したバラード曲『群青の花』にすると、僕たちはすでに決めていた。
「いや、真反対の曲にしたいと思ってます」
「真反対、っていうと?」
 今度はあいちゃんが尋ねる。
「考えてみたら俺らって、キラーチューンらしいキラーチューンはなかったじゃないですか」
「キラーチューン?」と僕。
「このバンドといえばこの曲、みたいな、めちゃくちゃ盛り上がる曲です。ライブでもここ一番のタイミングで披露する感じの、要は必殺技ですよ」
 なるほど、必殺技みたいな曲か。たしかにpaletteにはなかったかもしれない。

  *

 それから大会までの時間は、あっという間に過ぎていった。

 トイチと違い、キスケはギターで曲を作ってきた。
 この曲は今までと違い、詞もキスケ自身が書いた。
 新曲の方針が固まると、僕たちの結束は一段と強くなったような気がした。

 本番の2週間ほど前、今回は思い切って、絵梨奈に連絡してみた。
 しかし彼女は、当日は用事があって来られないそうだ。
 まあ仕方ない。彼女にも彼女なりの事情があるのだろう。僕が深く干渉すべきではない。
 それに、絵梨奈がいなくてもやることは変わらない。
 ベストの演奏をして、今度こそ全国に進むのだ。

  *

 そして迎えた、僕たちにとって二度目となるミューブレ県大会。
 この年のpaletteの出番は、ホワイトアウトの直後だった。

 袖から聞いているだけでも、ホワイトアウトは昨年よりレベルアップしているのがわかる。
 鹿目(かなめ)くんのボーカルはもちろん、ギターとベースとドラムも、力強さ、安定感ともに増していた。2曲のうち1曲は昨年も演奏していたものだったが、こんなに圧倒される曲だっただろうか。
 しかしながらこちらにも、卒業ライブで得た新たな武器と、キスケを中心にこの日のために作り上げた必殺技がある。
 この二つがあれば、ホワイトアウトにも負けないし、全国も夢ではない気がした。

 ここまでで一番の大きな拍手に包まれ、ホワイトアウトが演奏を終える。

「行こう。去年のリベンジだ」
 トイチが歩き出す。
 続いてキスケと翠ちゃんが、自身の楽器を携えてステージへ向かう。あとを追うあいちゃんの表情に、昨年のような動揺や落胆は見られない。
 僕もシンセを持ち、鹿目くんたちとすれ違いでステージに上がった。

  *

 まずは卒業ライブでも演奏したバラード、『群青の花』。
 卒業ライブ以降さらに練習を重ね、あいちゃんの歌も僕たちの演奏も、より洗練されたものになったと思う。1曲目に披露するということで、僕はイントロを新たにアレンジし直した。
 あの日僕は絵梨奈に届けという一心で鍵盤を弾いていたが、今回は絵梨奈ではない聴衆に、そして審査員に届けなければならない。

 僕はふと、ある日の帰り道であいちゃんが話していたことを思い出した。
「あの曲のタイトル、なんで『群青の花』なの?」
『青い花』っていう話をモチーフにしたんだよね、と僕が尋ねると、
「ボーカルとキーボードが主役の曲でしょ? だから、藍花(あいか)の藍と黒川(くろかわ)の黒で、思い浮かんだ色が群青だった。それ以外に特に深い意味はないんだけど」
 と、あいちゃんは笑った。

 少し間を空けて、彼女は「あ、でも」と思い出したように呟いた。
「ただの青ってよりは、もっと濃くて、心に深く刻まれるような、そんな曲にしたいって思ったのかな」
 それを聞いて、卒業ライブの日のことが頭をよぎった。
 ──心に深く刻まれる曲。
 ひょっとすると、絵梨奈にとってはそうだったかもしれない。そうであってほしいと思った。
「歌に自信がもてなくなったこともあった。だけどpaletteのみんなが支えてくれた。ライブをやるたびに、やっぱり歌うのって楽しいなって思えるようになった」

 ──私の理想に、ほんのちょっとだけ近づけたかなって思えたよ。
 黄昏時の空の下、あいちゃんが微笑んでいた。

 そしていよいよ、必殺技を披露するときが来た。
「音楽が私たちの居場所を作ってくれました。バラバラだった色が、音楽を通じて混ざることができました。音楽があったから、今こうしてここにいます。──これがpaletteの音楽です! 一つに混ざり合いましょう!『金色(こんじき)トワイライト』!」

 トイチがスティックを叩いてカウントを入れる。
 あいちゃんが勢いよく、サビを歌いだした。
 先ほどの曲からは一転して速いテンポを刻むトイチのハイハット。ボーカルに呼応するように掻き鳴らされるキスケのギター。
 そしてサビが明けると、曲が一気に熱を帯びる。
 序盤から、トイチの重厚なキックと翠ちゃんのうねるようなベースが響く。ドラムの刻むリズムが変則的で、当初あいちゃんは歌うのに苦労していたが、今は自分のものにしている。
 キスケと僕は、いわば刀と飛び道具だ。随所でギターが斬り込み、シンセの音が撃ち出される。この曲のシンセの音色は、今までで最も試行錯誤を重ねたと思う。

 いつかの練習後、キスケが言っていたことを思い出す。
「俺らって、たぶんバンドでも組まなきゃ、こうして会話なんてすることもなかったと思うんです」
 翠ちゃんが同意する。
「それは私も思ってた。私たちって性格とか趣味とかみんな違うし、音楽がなかったら、知り合うことすらなかったんじゃないかなって」
 トイチが頷く。
「たしかにな。俺とキスケだって、同じ中学だったけど、音楽っていう共通項がなかったらまともに会話することなかったんじゃねぇかな」
 あいちゃんが賛同する。
「私たちにとってpaletteってバンドはある意味、5人をつなぎ止める糸っていうか、居場所なんだよね、きっと」
 僕も彼らの言葉に、何一つ異論はなかった。
「なりゆきで組むことになってしまったけど、なんだかんだで1年続いてる。とはいえ辞めたいとは思わないし、今となってはむしろ、居心地がいいとさえ思うよ」

 もともと音楽の能力や適性のあった人が、自分を表現するための場としてここを選んでいる。
 好みも性格も違う、普通に生活していたら言葉を交わすことすらなかったであろう5人。
 僕たちは音楽を通じて仲間になった。
 逆に言えば、音楽がなければ会う理由なんてなかった。

 それからキスケはこう続けた。
「音楽って不思議なもんですよね。理論とか知ってても知らなくても楽しめるし、理屈はわからないのに、これは楽しそうな曲だとか、こっちは暗い雰囲気だとかいうことは感覚的にわかる。俺だって実は楽譜はろくに読めないんですけど、ギタリストできちゃってますからね」
 言われてみれば僕も、音楽理論はそこまで詳しいわけではない──春子先生にいろいろと教わったことはあるが、だいぶ忘れてしまった──し、ギターやドラムの譜面はまったく読めない。それなのになんとかバンドとしてやっていけている。

「そんな音楽の力があったからこそ、俺たちはこうしてpaletteをやってるんだと思います。これが俺たちの音楽だ、みたいなやつをぶつけていきましょうよ!」

 僕たちの必殺技は、たしかに効いていた。
 聴衆が沸く。1曲目のバラードからの落差もよい方向に作用しているのかもしれない。
 色とりどりのライトが僕たちを照らす。あいちゃん、キスケ、翠ちゃんの3人が前に出る。
 曲はクライマックスへと向かう。僕たちの想いが共鳴する。尖りつつも、まっすぐ空を切り裂くような音楽だ。

 この大会で勝つ以外に、paletteというバンドに目的なんてなかった。
 ただpaletteという場所があるから、僕たちは爪弾き、叩き、歌うのだ。

 そう、これがpaletteの音楽。
 今の僕たちが奏でる色だ。
 
 
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