2018/08/05

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【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第19章

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ポートレイト~ 第18章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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【Film.2 ~ポートレイト~】
 
 
◆ 第19章

 ミューブレ地区大会も、残すところあと一組となった。
 最後に登場するのは、鹿目銀(かなめぎん)くん率いる4人組バンド、ホワイトアウト。
 このあと結果発表があるからか、はたまたホワイトアウトの前評判でもあったのか、大半の出演者がフロア内に集結していた。
 僕たちはフロアのややステージ寄りの、センター付近を陣取っていた。
 (みどり)ちゃんに忠告をされつつも、やはり興味はあるのだろう。あいちゃんも見に来ていた。

「ホワイトアウトです! 最後、皆さん燃え尽きるまで楽しんでいきましょう!」
 鹿目くんが高らかに言い放ち、彼らのパフォーマンスが幕を開けた。

 わずかな静寂の後、鹿目くんの弾き語りによるサビの歌唱で、曲が始まった。

  *

 第一声で、空気が変わった、と思った。
 エレキギターとボーカルの声だけなのに、こんなにも空気は震え、ひりつくものなのか。
 この場にいる全員の目を一瞬たりとも逸らさせないような、そんな歌声だ。

 そしてシンバルが鳴り、一気に曲が加速していく。

 ほかのバンドを見ていると、ドラムが走ったり、ギターの音が弱々しかったり、ベースがリズムに乗れていなかったり、ボーカルの声が上がり切っていなかったりなど、聴いていて不安になることがときどきあった。
 palette(パレット)はそういう部分がないから、やはり技術は確かなのだろう。
 ホワイトアウトはというと、ギター、ベース、ドラムの演奏には、少なくともpaletteと比べるとやや難があるような気もした。
 しかしながら、それを補って余りあるボーカルの歌唱力。そして観客を盛り上げ、ライブを作っていく上手さ。

 鹿目くんだけでなく、ギターやベースも積極的に前に出て観客を煽っていく。
 最前列には、鹿目くんたちの友人らしき男子高校生が群がっていた。
 彼らが曲に乗るものだから、後ろで見ている人たちも、つられて手をたたき、腕を振り上げる。

 鹿目くんは純粋な歌唱力もさることながら、ときにはラップやファルセット、ボイスパーカッションまで披露してみせる。ギタープレイも情熱的で、思わず見入ってしまう。
 たとえるなら、強烈な剛速球と多彩な変化球。
 こんなことができる同級生がいるのか、とただ驚嘆するばかりだった。

 気がつくとあっという間に10分間は終わっていて、すっかり気分が高揚していた僕は大きな拍手を送っていた。

 ふと横を見ると、あいちゃんが呆然と立ち尽くしているのが目に入った。

  *

 結果発表を含めた全プログラムが終わり、荷物をまとめた僕はロビーの自販機の前にいた。
 自分の分のは缶のサイダーでいいとして、もう一本。
 ──ペットボトルのミネラルウォーターがいいだろうか。

 飲み物を買って自販機から離れると、人が入り乱れざわつくロビーの中に、僕は鹿目くんの姿を見つけた。
 向こうも僕を見つけたようで、手を振ってこちらにやってきた。

「全国、おめでとう」
 とりあえず、鹿目くんにお祝いの言葉を伝える。
「ありがとう」と鹿目くん。「……paletteさんは、残念だったね」
「まあ、仕方ないよ。初めてのライブだったし、まだ結成して2カ月ちょっとだし」

 全国大会への切符をつかんだのは、鹿目くんたちのホワイトアウトと、もう一組は知らない3年生バンドだった。知らないといっても地元では有名なのかもしれないし、実際聴いていて、あの人たちの演奏は上手いと思った。
 ホワイトアウトは言わずもがなだ。特に鹿目くんは、頭一つ飛び抜けていた印象だった。
 こういうときは「悔しい」と思うのが〝正しい〟のかもしれないが、僕は「仕方ない」という気持ちのほうが強かった。
 ──それに今は、もう一つ心配なことがある。

「来年も、ミューブレには出るよね?」
「うん、たぶん」
「ならよかった。今回は残念だったけど、来年再来年、全国のステージで一緒にやれるの、楽しみにしてる」
 鹿目くんは、僕たちのパフォーマンスを評価してくれてはいるらしい。
 実を言うと鹿目くんが例の心配事の要因なのだが、それは態度には出さないでおく。
「全国か。paletteも、行けるのかな」
「それは僕にはわからない。だけどさ」
「……だけど?」
「いやまあ、これも僕の持論でしかないんだけど」と前置きしたうえで、鹿目くんは言った。「正しい奴が勝ち残れるとは限らない。だけど最終的に勝ち残るのは、〝正しい〟奴だと僕は思う」

「努力したからといって成功するとは限らない。だけど成功した人は必ず努力している」みたいな言説だな、と思った。
 あの言葉を僕はあまり信用していなかったが、鹿目くんの言葉は信じてみようという気になっていた。彼らは勝って、僕らは勝てなかった。だから少なくとも今は、彼のほうが〝正しい〟のだろう。

「裏を返すと、バンドとして〝正しい〟ことを貫き通せば、いつかそれが武器になり、周りを巻き込む力になり、勝ち残るためのカギになると思うんだ」

 ──正しさ。
 いつかの「雪が溶けると」ではないが、やはりそれがつきまとうのか。

 ふさぎかけていた古傷が、再び開いたような。
 会いたくなかった旧友に、再び会ったような。
 僕は何も言えず、缶のサイダーを飲むことしかできなかった。炭酸が意外に強く、一気に飲もうとすると吐き出してしまいそうだった。

  *

 その後、鹿目くんはホワイトアウトのほかのメンバーに呼ばれて帰っていった。

「そろそろ撤退しろって言われたから、出てきちまったぜ」
 ちょうど鹿目くんと入れ替わるくらいのタイミングで、トイチとキスケがやってきた。
 そして彼らから少し遅れて、翠ちゃんと、翠ちゃんに肩を抱かれるようにして俯いているあいちゃんの姿。
 出入口の横のベンチに、翠ちゃんがあいちゃんと一緒に座った。

 同い年の鹿目くんに、圧倒的な実力を見せつけられた。僕があいちゃんの立場でも、敵わないと思ってしまっただろう。上には上がいる、どころの話ではない。
 歌には自信をもっていた──歌くらいにしか自信をもてなかった──あいちゃんにとっては、全国に行けなかったことよりもずっとショックだろう。翠ちゃんが、あいちゃんは見ないほうがいいと言っていたのがわかる。
 僕たちも、負けたこと以上にあいちゃんのことが気がかりだった。

 立ち直れずにいるあいちゃんに付き添っていた翠ちゃんに、僕は何か飲み物を買ってくるように言われたのだ。
「これ、飲み物買っといた。水でよかったかな?」
「……ありがとう」
 あいちゃんは僕の手からペットボトルを受け取り、蓋を外すと小さく口をつけた。目元には泣き腫らした跡がある。
「……大丈夫?」
 僕が尋ねても、あいちゃんは何も答えなかった。

「そうだ(みなと)」とトイチ。「さっき、ホワイトアウトの、鹿目、だっけ? あいつと話してなかったか?」
「ああ、うん。実は……」
 僕は、先ほど鹿目くんが言っていたことを伝えた。

  *

「……ふーん。なんだ、うちのボーカルをどうしてくれんだ、とか言って、一発殴りゃよかったじゃねぇか」
「どうせなら土下座でもさせるべきだったね」
 トイチと翠ちゃんが、表情一つ変えずに言う。一見恐ろしいが、あいちゃんを気遣っての言葉でもあるのだろう。

「俺だって、ギターは弾けるけど歌は歌えないから、あれだけ歌いながらギターも弾ける鹿目くんには、ちょっとショック受けさせられましたよ」
 キスケもフォローを入れる。
「どうせあいつら、ボーカルが強いだけのワンマンバンドだろ。──あいちゃんには俺らがいる。後ろからいくらでもサポートしてやるさ」
 こういう自信家なところはトイチらしい。

「……正しさ、ね」
 翠ちゃんが、あいちゃんの頭を撫でながら言い聞かせる。
「私たちは、鹿目くんたちみたいなのを目指す必要はないと思う。だって私たちには、ホワイトアウトにはないキーボードと、あいちゃんっていう最高の女の子ボーカルがいるんだもん。私たちは、私たちなりの正しさっていうのを見つけていけばいいんじゃないかな」
 翠ちゃんの手の中で、あいちゃんが小さく頷いた。

 僕も率直な気持ちを打ち明けることにした。
「鹿目くんはたしかに上手い。だけど僕たちの曲を、鹿目くんがあいちゃん以上に上手く歌えるとは思わない」
 たぶん僕たちの曲はあいちゃんだからこそ一番綺麗に歌えるのだろう、というのが、この一日、ホワイトアウトやほかのバンドを見ていての感想だった。

 あいちゃんは何も言わなかったが、ほんの少しだけ、笑顔が戻ったように見えた。

  *

 僕たちはライブハウスをあとにした。
 日中は高く昇っていた太陽も、すっかり沈んでいた。

 背負ったシンセはやはり重い。夏は背負っているだけで背中から汗が噴き出てくる。
 ライブハウスの中は冷房が効いていると思って長袖のシャツを羽織ってきた──実際、会場内は寒いくらいだった──のだが、さすがに7キロ近い重りを背負って外を歩いていると、半袖を着てこなかったことを後悔したくなる。

 あいちゃんはまだ納得はしていないみたいだったが、少しは立ち直れたようだった。
 僕もあいちゃんが安心して背中を預けられるくらいにならなければ、と思った。

 初めての大会、そして初めてのライブは、結果以前の課題が残るものとなった。

 ──僕たちが信じるべき〝正しさ〟って、何だろう。
 
 
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