2018/08/03

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【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第18章

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ポートレイト~ 第17章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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【Film.2 ~ポートレイト~】
 
 
◆ 第18章

 18歳以下のアマチュアバンドを対象としたコンテスト『U-18 Music(ミュージック) Breakthrough(ブレイクスルー) Contest(コンテスト)』、通称ミューブレは、地区大会から一般の人も観覧できることになっている。
 チケット代はもちろん必要になるが、個人でチケットを購入できるほか、出演者経由で主催者に申し出ればチケットを取り置きしてもらうこともできる。
 つまり、友人や知人に見に来てもらうことができるわけだ。

 絵梨奈(えりな)に見に来てほしい、ということを、僕は第一に考えた。
 しかしコンテストどころか、僕はライブというもの自体が初めてだった。亜矢奈(あやな)さんに言われて過去の大会の映像を見てみたが、当然ながら僕が経験してきたようなピアノの発表会とはわけが違う。
 バンドとして練習は一応してきたが、ステージに上がったことはない。本番でいいパフォーマンスができるか、というよりは、自分がpalette(パレット)というバンドの一員であって、キーボーディストであって、などといったことにまだ何一つ自信がもてなかったのだ。

 押しつけがましくなく、あまり期待させすぎず、それでいて来てくれるような。そんなことを考えつつ、メールの文面を書いては消して、書いては消してを繰り返していた。
 いつものように、宛先は空欄のままで。

 しかし結局、絵梨奈を誘うはずだったメールは未送信ボックスに眠らせたまま、僕は本番の日を迎えた。

  *

 地区大会の会場は、僕たちがいつも使う駅から2駅ほど離れた場所にある、約300人を収容できるライブハウスだ。県内では一、二を争う大きさらしいが、トイチいわく東京にはこれの10倍のキャパシティを誇るところもあるのだとか。

 大会の本番は午後からで、午前中はリハーサルにあてられた。
 リハーサルは本番の出演順の逆順に行われた。つまり最後に演奏するバンドが最初にリハを行って、最後にリハを行ったバンドから本番は演奏する。
 僕たちpaletteの本番での出番は、26組中10番目。順番はくじ引きで事前に決められていたらしい。
 自分たちのリハが始まる時間までに来ていればいい、ということになっていたので、朝は比較的余裕があった。僕が会場に着いた頃には、すでに5組ほどがリハーサルを終えていた。

  *

 会場に着くと、まずあいちゃんから「もうちょっとかっこいい服なかったの?」と服装にダメ出しをされ、翠ちゃんにはため息までつかれた。ちなみに、トイチとキスケも似たような反応をされたらしい。

 この日の服装は、トイチは臙脂色のポロシャツにジーンズ、キスケは黄色い半袖Tシャツと紺のベストに七分丈のチノパン、そして僕は白無地のTシャツの上に着た薄手の黒い長袖のチェックシャツを肘までまくり、下はポケットがやたら多いカーゴパンツ。
 要するに、普段着ているような服とまったく変わりがない。まあ、男のファッションなんてこんなものだろう。

 あいちゃんはクリーム色の半袖のトップスに藍色のデニムパンツとスニーカー、という一見普通のスタイルだが、トップスの膨らんだ袖と腰のあたりにあしらわれているリボンが、よそいきな雰囲気を感じさせる。両手の爪は桜色に塗られていて、右手首にはプレスレットもつけていた。
 (みどり)ちゃんは、深緑色のノースリーブに、膝まである白のカーディガンを合わせていた。下は裾の広がった水色のパンツに黒のパンプス。桜色のマニキュアは、あいちゃんとお揃いにしてきたのかもしれない。さらに、学校にはつけてこないようなシルバーのネックレスとイヤリングが、胸元と耳に光っていた。
 二人ともうっすらとメイクまでしているように見える。
 発表会ではないが、やはりステージに上がるとなると女の子は気合いが入るのだろうか。

 僕も次からは気をつけるべきなのかもしれない。
 あるいは絵梨奈が来るとでもなれば、もう少し心構えは違っていたか。

  *

 最後の組のリハーサルをする頃になると、ほぼすべての出演者が会場に集まっていた。ステージ袖に楽屋はあるのだが、もちろん全員は入り切らない。楽器は楽屋に置かせてもらえたが、出番を直前に控えた人以外は原則としてフロアのほうに出ることになっていた。
 26組、人数にして約100人。
 この中で2組だけが、全国大会への切符を勝ち取れる。

 ほどなくして開場の時刻となり、一般のお客さんも入ってきた。
 といってもフロアにいるのは、半分が出演者、3割くらいは大会かライブハウスのスタッフだろう。一般客は少数派だ。
 満員とは程遠い客の入りなので、スペースには余裕がある。開演すると、フロアにいる人たちはそれぞれ思い思いの位置でステージを見ていた。
 僕が経験してきたのはピアノの発表会くらいのもので、そこでは椅子が設置されているホールで着席して見るという形だったので、そもそも立ち見ということ自体が新鮮だった。

 言うまでもなく、会場に絵梨奈の姿はない。
 彼女に会えるいい機会になるかとも思ったが、まあ仕方ない。絵梨奈に来てもらうのは、僕がもっと経験を積んで、自分のパフォーマンスを堂々と見せられるようになってからにするのが〝正しい〟だろう。

  *

 9番目のグループの演奏が終わり、僕たちの出番がやってきた。

「paletteです! 今日はよろしくお願いします!」
 あいちゃんが言うと、観客が拍手をくれる。彼らもほとんどが今日の出演者だから、ステージに立つ人の気持ちはわかるのだろう。
「まずは1曲目、聴いてください。『Bon Voyage Blue』」

 トイチが「1、2、3、4!」とスティックで合図を出す。
 8小節のイントロ。前面に出るのはキスケのギター。トイチが刻む四つ打ちのリズムと僕が弾くコードがそれを支え、翠ちゃんのベースが躍動感を演出する。よし、出だしは順調だ。

 あいちゃんがAメロを歌い出すと、僕は手を頭の上に挙げ、曲に合わせて手拍子を打った。Aメロはキーボードを休みにして、ハンドクラップで盛り上げてほしい、とトイチに言われたのだ。
 初めはおそるおそるやってみたクラップだが、フロアを見ると、僕に合わせて一人また一人と手をたたいてくれる人がいた。僕も次第に気持ちが乗ってきた。
 あいちゃんも歌いながら──マイクを持っているので手拍子はできないが──観客の反応を見て腕を振ったりなどしている。もともと明るくノリがいい性格なので、前に出て盛り上げたりする役回りは向いているのだろう。

 あいちゃんの歌の上手さには目を見張るものがあった。素人の感想だが、音程もリズムも外すことなく凛とした声で歌うので、非常に聴き心地がいい。加えて音域も広く、高音も低音も安定している。
 本人は自信なさそうにしていたが、僕たち楽器隊の演奏にも全然負けていない。

 Bメロからは僕も演奏に加わる。序盤で作った勢いを増幅させながらサビへと突入する。
 これは僕たちの始まりの歌だ。
 あいちゃんの歌声で、会場の空気が僕たちの色に染まっていく。paletteの音楽に、聴いている人がリアルタイムで応えてくれる。

 曲が終わると、拍手が起こった。
 ──楽しいな。これがライブか。
 初ライブの1曲目、僕はたしかな手応えを感じた。

「私たちはこの春結成したばかりの、全員が1年生のバンドです。今日が初めてのライブで、緊張してるんですけど、楽しんでいってくれると嬉しいです」
 あいちゃんがトークでつなぐ。放送部だけあってか、緊張しているといいながらも話しぶりは落ち着いていた。
 ここで、あいちゃんがメンバー紹介をする。
「ギター、キスケ!」「ベース、翠!」「キーボード、(みなと)!」「ドラム&バンマス、トイチ!」呼ばれるたびに、僕たちは自分の楽器でワンフレーズ演奏してみせた。
「そしてボーカルは私、藍花(あいか)です! 私たち、paletteっていいます。名前だけでも覚えて帰っていってください!」
 再び拍手をもらうと、2曲目の前振りに入る。
「次の曲、聴いてください。『アカネゾラ』」

 初のスタジオ練習の日、トイチが持ってきたデモの2曲目。僕たちのアレンジとあいちゃんの詞で、切なさの漂うミディアムテンポのロックに仕上がった。
 あなたにとって私は大切ではないのかもしれないけれど、私はあなたのことが忘れられない。そんな心情を綴った女性目線の歌詞を、あいちゃんが振り絞るように歌い上げる。
 それを彩るのは、正確かつ骨太なトイチのリズムキープであり、曲の質感を引き立てる翠ちゃんのベースであり、メリハリのきいたキスケのギターリフだ。僕も負けていられない。

 大きなミスやトラブルもなく、2曲目もやり切った。
 今できるパフォーマンスとしては、十分いいものができたのではないだろうか。
「このあともいろんなバンドさん出てくるので、最後まで楽しんでいってください! paletteでした! ありがとうございました!」
 拍手の中、あいちゃんの最後のコメントで、僕たちは出番を終えた。

  *

 出番を終えて緊張から抜け出した僕たちは、しばらくロビーでくつろいでいることにした。
 持ち時間は10分しかないので、一つの組が演奏するのはせいぜい2曲しかないが、26組も出演者がいて転換などもあるので、本番だけでも5時間を超える長丁場になる。
 すべての組が終わったあとに結果発表があるので、僕たち出演者は最後までライブハウスにいなければならなかった。
 とはいえ、入場時にもらった関係者用のパスさえあれば、再入場は何度でも可能だった。

「あれ、もしかして、paletteさん?」
 会場から一人の少年が出てきて、僕たちに話しかけてきた。

 やや色黒の肌に、大きな目と口。体型は僕とさほど変わらないが、彼が着ているTシャツは僕のものより二回りはサイズが上ではないだろうか。右耳のピアスや肩まで伸ばした明るい色の髪など、いかにもバンドマン然とした風貌だ。
 Tシャツの裾にパスが貼られていたので、彼も出演者だろう。

「ああごめんごめん、僕は鹿目銀(かなめぎん)。高校1年。ホワイトアウトってバンドのギターボーカルをやってる」
 きょとんとする僕とあいちゃんとキスケ。疑わしそうな目を向けるトイチ。驚いたような表情の翠ちゃん。
「ホワイトアウトって、たしか今日のトリの……」
 キスケが言うと、「覚えてくれてて嬉しいよ!」と顔を綻ばせる鹿目くん。
「paletteさん、さっきのステージ見てたよ。1年生バンドとは思えないくらい、すごいよかった。5人とも、個々の技術力がすごく高いなぁって思った。うちの県で、あれだけできる人が揃ってるバンドはそうそうない。全国に行ってもおかしくないと思う」

 ──全国。
 僕たちは結成したばかりで、ライブは今日が初めてだ。全国になど行けるレベルなのだろうか。行ってもいいのだろうか。

「paletteさんって、曲作ってるのは誰?」
「……俺だけど?」
 トイチが顔をしかめながら答える。
「ドラムさんか。バスドラ、パンチが効いててグイグイ乗せられたよ。フィルインの入れ方もかっこよかった。あれだけたたけて、しかも曲も作れるなんてすごいね。2曲とも、聴かせるところは聴かせつつも衒いすぎない感じで、いい曲だった」
「そりゃどーも」あくまでぶっきらぼうなトイチ。「詞を書いたのはうちのボーカルだけどな」

 鹿目くんが、今度はあいちゃんに話を振った。
「ボーカル、ってことは君かい?」
「えっ? あ、はい」
「そんなに固くならなくていいよ。僕たちタメなんだし」
 あいちゃんが身構える。初対面の男にこうも詰め寄られたら、いくら同い年といえど警戒するのも無理はないだろう。
「オーディエンスを乗せるのも上手いうえに、ゆったりしたテンポの曲も歌える。音程もリズム感も正確で、見習わなきゃなって思ったよ。特に君の透き通った声とよく伸びる高音は、僕が頑張ったところで習得できるものじゃない」
「あ、ありがとう、ございます……」
 あいちゃんとしては複雑な心境だろう。

「同じ1年生バンド同士、頑張っていけるといいな。paletteさんと、全国のステージでやれるのが楽しみだよ」
 ここで、それまで笑みを貼りつけていた鹿目くんの顔が、急に引き締まった。
「だけど、僕たちは負けない。paletteさんにはぜひ、ホワイトアウトのステージ、見ててほしい。いや、見ていってください」
 そう言うと鹿目くんは自販機でジュースを買い、ライブハウスの外に出ていった。

  *

「何だったんだあいつ?」
 鹿目くんの背中を見ながら、トイチが小馬鹿にしたように言う。

「……宣戦布告、じゃないかな」翠ちゃんが呟いた。「鹿目銀くん。小学生の頃に何度か、歌が上手い天才少年みたいな感じで、テレビに出たこともあるみたい。去年のミューブレでは、高校3年生とバンドを組んで全国に行ってる」
「そんなすごい人だったんですか?」とキスケ。
「ミューブレって中学生でも出れたの?」とあいちゃん。
「あくまで『18歳以下』だから、高校生じゃなきゃダメって決まりはないんだって。まあ、全国に進むのはほとんどが高校生らしいけど」
「そんな鹿目くんから見て、僕たちは全国に出られるくらい上手いってこと?」
 僕が尋ねると、「あんな奴に認められても嬉しくねぇよ」とトイチがぼやく。
「まあ、そこが本当なのかはわかりかねるけど……」
 翠ちゃんの言葉を、キスケが続ける。
「仮に認めてたとして、でもそのうえでホワイトアウトは、俺たちに勝つ自信があるってことですか」
「そういうことだと思う。……あと、あいちゃん」
 翠ちゃんが気まずそうに、あいちゃんに言った。
「何?」
「……もしかしたら、あいちゃんは鹿目くんが歌うの、見ないほうがいいかもしれない」
 
 
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