2018/07/29

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【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第17章

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ポートレイト~ 第16章
 
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【Film.2 ~ポートレイト~】
 
 
◆ 第17章

 初のスタジオ練習から数日。大型連休を間近に控えた頃。
 僕は駅ビルの楽器店を訪れていた。シンセを見ておこうと思ったのだ。

 キーボードが並べられている一角で、商品を眺めたり、店頭に置いてあったカタログを漁ったりしてみる。安くても5万円ほどの値段はするようだ。高いものは桁が一つ違う。親に頼み込んでお金を出してもらって、あとはバイトでもして返すことになるだろうか。
 何台か軽く弾いてみる。ボタンやツマミなどの配置は機種によって全然違うのだが、違いがよくわからない。メーカーごとの特色くらいトイチに聞いておけよかったかもしれない。僕にわかるのは、鍵盤のタッチの感覚がわずかに異なるということくらいだった。
 何を基準に選べばよいものか、と思案していると、背後から女性の店員さんが話しかけてきた。

「もしかして(みなと)くん? 久しぶり!」
 やけに親しげな口調だった。
 振り返ってみると、そこにいたのは、
「あ、亜矢奈(あやな)さん!?」

 白川(しらかわ)亜矢奈(あやな)さん。絵梨奈(えりな)のお姉さんだ。

  *

 絵梨奈と、3歳年上の姉である亜矢奈さんは、見た目も中身も、正直言って似ても似つかない姉妹だと思う。
 背が高めの絵梨奈に対して亜矢奈さんは小柄だったり、比較的大人しい絵梨奈に対して亜矢奈さんは活発で男勝りな性格だったり、絵梨奈いわく趣味なども大きく異なるのだそうだ。まあ、二人とも小さい頃から非常に頭はよかったらしいが。

 数少ない共通点としては、二人ともピアノを習っていたということだろう。
 亜矢奈さんは僕たちが通っていたのとは別の教室に通っていたのだが、僕たちの発表会はいつも見に来ていたため、僕も亜矢奈さんもお互いに顔見知りではあった。

 亜矢奈さんは現在、大学1年生。僕たちの高校のOGにあたる。
 高校時代は、軽音部でキーボードを弾いていた。文化祭で軽音部のライブを見たとき、小柄ながらも一際目立っていたのを覚えている。
 僕は半年前にステージの上の亜矢奈さんを見ていたが、こうして会って話すのはおそらく3年ぶりになるだろう。

  *

「びっくりしたよ。今日はどうしてここに?」
「バンドでキーボードやることになったんです。6月中には手に入れておきたくて。それで今日ちょっとシンセを見ようかと……」
「おー、湊くんもバンドか! もしかして、文化祭ライブで私のキーボードプレイに惚れちゃった?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「なーんだ」
「最初は軽音入るつもりはなかったんですけど、たまたま友達に誘われて……」

「湊くん、高校は一高なんでしょ? 絵梨奈から聞いたよ」
「はい、なんとか受かりました」
「またまたぁ。ゆーて湊くんなら余裕だったでしょ。まあ、おめでとう。晴れて私の後輩だね」
「ありがとうございます」
 絵梨奈に聞かずとも、平日の夕方に私服姿で出歩いている高校生なんて、僕と同じ学校の人たちくらいだろう。
 そういえば、絵梨奈と亜矢奈さんって仲はいいのだろうか。性格が違いすぎるからか、この二人がよく話すというイメージは僕の中にあまりなかった。

 メールを一通も送れていない僕は、絵梨奈の近況をメールで知ることもない。
 だから亜矢奈さんと会えたのは絵梨奈のことを聞けるいい機会かもしれないと、ほんの少し期待していた。

「……絵梨奈からは、最近何か連絡ありますか?」
「それがねぇ、あんまり連絡よこさないのよあの子。こっちに負担かけまいとしてるのかもしれないけど、そんなの別にどうだっていいのにね。まあ悪い話も聞かないから、とりあえず元気にやってるんだとは思うよ」
 期待は外れてしまった。
 実家に心配をかけないように。絵梨奈らしいといえば絵梨奈らしいのかもしれない。

 亜矢奈さんは、黒い長袖シャツの上に、楽器店のロゴが入ったエプロンを着ている。
「亜矢奈さん、ここでバイトしてるんですか?」
「そう、バイト。大学入ってすぐ始めた。このとおり、まだ研修中だけどね」
 そう言って、エプロンについている名札に貼られた、「研修中」と書かれたシールを指さす亜矢奈さん。
「バイト先がここってことは、大学はこっちなんですか?」
「そ。実家から地元の大学に通ってる。一高の卒業生としては少数派かな」
「こっちに残る人って少ないんですか?」
「やっぱ東京の大学受ける人が多いね。私の仲よかった友達も、ほとんどが東京か、そうじゃないにしても実家離れてる。おかげで私はゴールデンウィークも遊ぶ相手がいなくて、バイト漬けになりそうだよ」
 亜矢奈さんは小さくため息をついた。
 大学進学後のことはまだイメージがまったくつかめないが、高校以前の友人と再会できるのはゴールデンウィークが最初のチャンスなんだろうな、と漠然と考える。

「……でさ、シンセ探してるんでしょ? よかったら、私が使ってたやつ譲ろうか?」
 亜矢奈さんから、思いがけない一言が飛び出した。
「えっ、いいんですか?」
「さすがにタダとは言わないけど、半額でなら譲ってもいいよ。あくまで中古品なわけだし、どうせ私はもう使わないし」
「大学ではバンドやってないんですか?」
「高校で燃え尽きちゃったってのもあるし、大学の軽音サークルも一応見てみたんだけど、なんか違うなって思ったから。もちろん、プロになりたいわけでもないし」
 そう話す亜矢奈さんの表情に、後悔はなさそうだった。

「……じゃあ、譲ってもらっても、いいですか?」
「よし、ありがとう湊くん! これであの子も、埃かぶらずに済むよ」
 亜矢奈さんはニカッと笑って、僕の肩をたたいた。

  *

 5月の連休の初日、僕はシンセを受け取るため、亜矢奈さんと駅で再会した。
 亜矢奈さんは大きな四角いケースを背負っていた。この中にシンセが入っている。亜矢奈さんはこれをケースごと譲ってくれた。
 亜矢奈さんから請求されたのは、貯めていたお年玉で手が届く金額だった。親にお金をもらうこともバイトなどをすることもなく、一括で払うことができた。

「ちゃんと動くことは確認したから」さらに亜矢奈さんは、手に持っていた紙袋を僕にくれた。「これシールドね。これだけあれば使うのに事欠かないはず」
「これもいいんですか?」
「あ、でもヘッドフォンだけは買って。あれは私もまだ使いたいんだ。ちなみにヘッドフォンは、家とかアンプがないところで練習するときに必要になる」
「わかりました。何から何まで、ありがとうございます」
 僕は頭を下げた。
「いいんだよ。私の元相棒、たっぷり使ってあげて」
 顔を上げる。亜矢奈さんも、笑うと少し絵梨奈に似ているかもしれないな、と思った。

「そういえば、6月までにほしいとか言ってたけど、もうライブとか決まってるの?」
 必要なものを僕に渡してお金を受け取ると、亜矢奈さんが僕に尋ねた。
「ライブ、というか、『Music(ミュージック) Breakthrough(ブレイクスルー) Contest(コンテスト)』っていう大会に出るんです。それが7月の初めにあって」
「あー、ミューブレか! あれ出るんだ?」
「はい。知ってるんですか?」
「だってほら、うちの店、協賛に入ってるし」
 それもそうか。失礼な質問だったかもしれない。
「全国規模の大会じゃん。それにあれって、全国で上位入賞したバンドは、大会の公式サイトでライブ映像が配信されるんでしょ?」
「そうなんですか?」
「知らなかった? ここ3年分くらいの決勝大会の映像はサイトで見れるはずだよ。湊くんたちのことをそこで見れるの、楽しみにしてる。頑張ってね」
「ありがとうございます。頑張ります」

 そして、最後に亜矢奈さんに言われた一言で、僕は重要なことに気づかされた。

「ところで、バンド名は何ていうの?」
「……えっ?」

  *

「──湊さんが気づいちゃったみたいなんで、そろそろ真剣に話し合いましょうか」

 連休明けの初日の昼休み、僕たちは5人で机を囲んで昼食をとっていた。
 僕がバンド名のことをキスケに言ったら、彼が話し合おうと提案したのだ。

「ずっと言おうと思ってたんだけど、タイミングがつかめなくて」
「私はてっきり、もう決まってんのかと思ってたよー」
(みどり)ちゃんもあいちゃんも、バンド名のこと気づいてたの?」
 どうやら、バンド名のことが頭になかったのは僕だけだったようだ。

 ここで一応書いておくと、僕は相澤(あいざわ)さんのことをあいちゃんと呼ぶようになってから、ほかの人と接するハードルも低くなったと思う。特に宮島(みやじま)さんのことを「翠ちゃん」と呼べるようになったのは、僕としてはかなりの進歩だろう。そういえば、「あいちゃん」の「あい」が相澤の相なのか藍花の藍なのかは未だに不明だ。
 そしてあいちゃん以外の3人も、僕のことを下の名前で呼ぶようになっていた。

「あいちゃんも翠ちゃんもうすうす察してる感じはしたから、湊が気づいたら本格的に話そうと思ってた。そうじゃなくても、どのみち大会のエントリー締切が6月半ばだから、そのときまでには決めなきゃいけなかったけどな」
 トイチがおにぎりを頬張る。トイチとキスケは、毎朝駅前のコンビニで昼食を買ってくるらしい。
「ちなみに、俺とトイチの間で決めてた仮の候補は、『ザ・オレンジイエロー』っていうんですけど」
 キスケの案を、
「うーん、却下!」
「センスを疑う」
 と女性陣がバッサリと切る。

「でもさ、私たち、みんな名前に色が入ってるよね。せっかくだし、ここから連想される言葉がよくない?」
 弁当のおかずを食べる手を止めて、翠ちゃんが言った。
「たしかに、それは僕も思った」と僕。
 相澤藍花(あいざわあいか)松田橙一郎(まつだとういちろう)高森黄助(たかもりこうすけ)宮島翠(みやじまみどり)黒川湊(くろかわみなと)。上手い具合に一文字ずつ、色を表す漢字が入っている。
「でも」僕は続ける。「黒でしかも僕だけ名字って、なんかアンバランスというか、この中だと仲間外れ感ない?」

「一人だけ名字とか、細かいことは気にしなくていいじゃないですか」
「湊くんは、もともと入る予定なかったのに図らずも入れられちゃったっていう、ちょっとイレギュラーなところもあるし」
「たしか色の三原色を全部混ぜると、黒になるんだろ? じゃあいいんじゃねぇか?」
 理屈がめちゃくちゃな気がするのは否めないが、反論もできない。僕はペットボトルの麦茶を一口飲んだ。

「となると、どうする?『ファイブカラーズ』とか?」
「ダサいしひねりがないね」
「『虹』……だと、2色足りないですよね」
「それに、虹に黒はないじゃん」

 すると、ここまで購買のコッペパンを食べるだけだったあいちゃんが呟いた。
「混ぜる……。さっきトイチが『混ぜる』って言ってたよね?」
「言ったけど?」とトイチ。

「『パレット』ってのはどう? 絵の具が混ざるみたいにさ、藍色とか緑とか黄色とかオレンジとか黒とか、いろんな色が混ざり合うの。私たちの個性とか、楽器の音色とか、あるいは見てる人たちの熱気とか、そういったものを混ぜ合わせて音楽を作ってく、みたいな!」

 なるほど、と思いつつ、僕は残り少なくなった弁当のおかずを口に運ぶ。こういうときはひとまず、ほかの3人の出方を伺うほうがいいだろう。
「シンプルで、でもなんか私たちらしくて、いいんじゃない?」
「……翠ちゃん、女子に甘くね?」
「『ファイブカラーズ』とか『ザ・オレンジイエロー』とかよりはマシだと思うけど?」
「それならここはかっこよく、アルファベットで『palette』にしましょう。どうですリーダー?」
「ああ、オーケーだ。湊も異論はないよな?」

 訊かれて、僕は口に含んでいたご飯を飲み込んだ。
「うん、『palette』、僕もそれでいいと思う!」

  *

 こうして僕たちは、『palette(パレット)』として大会にエントリーした。
 そして7月、いよいよ地区大会。高校生活最初の夏が始まる。
 
 
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