2018/07/13

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【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第14章

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.2 ~ポートレイト~ 第13章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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【Film.2 ~ポートレイト~】
 
 
◆ 第14章

「すみません!」
 僕が謝るのと同時に、その人もなぜか同じ言葉を発して頭を下げていた。
 どういうことかと思いつつも、ひとまず部室からは出たほうがいいだろうと思って立ち去ろうとすると、「いえ、いいんです」と引き止められた。

「私、1年1組の相澤藍花(あいざわあいか)っていいます。軽音部に入ろうと思っていて……。あ、今日は軽音部の友達に、放課後部室に来るように言われてたんですけど……」
 幸い、と言っていいのかはわからないが、相澤と名乗ったこの人も1年生だったようだ。
 相澤さんもどうやらずいぶん戸惑っているらしい。口調や態度から察するに、彼女は僕のことを先輩だと思っているのかもしれない。

「あ、いや、僕も1年なんだけど……」
 このまま誤解されるのも困ると思って僕が切り出すと、相澤さんは「へ?」と素っ頓狂な声をあげた。
「3組の、黒川湊(くろかわみなと)。軽音部じゃないんだけど、中学までピアノやってて、ここ通りかかったらキーボードがあったから、つい……」
「なんだ、そうだったのかー」
 相澤さんは緊張が解けたように笑って、砕けた口調になった。こうして見ると、快活そうな子だ。

「黒川くん、3組なんだよね。宮島翠(みやじまみどり)ちゃんってわかる?」
「ああ、知ってる。話したことはないんだけど」
 中学まで絵梨奈(えりな)以外の女子とはまるで接点がなかった僕は、高校に入ってからも女子とは誰一人まともな会話をしていなかった。同じクラスの宮島さんについても例外ではない。知っているといっても顔と名前くらいで、実際どんな子なのかはほとんど知らない。
 ただ、彼女の落ち着いた雰囲気には、どことなく絵梨奈を思わせるものがある気がした。

「翠ちゃん見てない? 今日の放課後、部室に来るように言われてたんだけど」
「僕がここに来てからは見かけてない」
「……じゃあさ、翠ちゃんが来るまで、何か弾いてよ」
「え?」
 僕が無断でキーボードを弾いていたことを咎めるどころか、もっと弾いてくれときた。まあ相澤さんもまだ軽音部に正式に入っているわけではなさそうだし、僕を責める権利はないのかもしれない。

「黒川くん、ピアノすごく上手いじゃん。私はピアノとか全然弾けないから、すごいと思う」
「いや、たいしたことはないよ」
 言いつつも、僕はまんざらでもなかったと思う。
 考えてみたら、コンクールなどの場面を除いて、身内以外の人からピアノをほめられた記憶はなかった。コンクールだって評価するのは熟練のピアノ奏者だろうから、まったくの素人に喜んでもらえたのは初めてだったかもしれない。

「これ弾けるかな……」
 中学2年の最後の発表会で弾いた、リストの『愛の夢 第3番』の冒頭部分を弾いてみた。
 僕が演奏してきた中で最も難しい曲だったし、あの発表会が終わってからは弾いていなかった。しかし最も熱心に練習した曲でもあったからだろう。指が曲を覚えていた。

 区切りのいいところで手を止めると、相澤さんは「おぉー」と目を輝かせながら小さく拍手をしていた。
「あ、どうも……」と軽くお礼を言っておく。

 ちょうどそのとき、部室にまた人が入ってきた。
「あいちゃん、来てたんだ。ごめん、お待たせ」
「あ、翠ちゃん!」
 大きな黒いケースを背負った宮島さん、それから男子生徒が二人、部室にやってきた。

「あれ、黒川くんじゃないですか!」
「……高森(たかもり)くん?」
 宮島さんと一緒に部室に入ってきた二人の男子のうち、一人は見覚えがあった。
 同じクラスの、高森黄助(たかもりこうすけ)くんだ。
 軽音楽部に所属している彼は、ときどきギターケースを背負って学校に来る。この日もそうだった。
 長身でチャラそうな見た目とは裏腹に、同級生に対してもなぜか敬語を使う。変わり者といえば変わり者だが嫌味な感じはないし、実際クラスでもみんなから愛されている。根は礼儀正しいのかもしれない。

「ごめんなさい! 勝手に部室のキーボード使ってました!」
 さすがに正式な軽音部員には謝らないといけないだろうと思い頭を下げたが、
「黒川くん、まさかのキーボード弾けたんですか!?」と高森くん。
「さっきここに来るとき『愛の夢』が聞こえると思ったら、あれ黒川くんが弾いてたの?」と宮島さん。
「う、うん、まあ……」
 思いのほか演奏に食いつかれ、僕は思わずうろたえてしまった。

「いやちょいちょいお前らさー」
 高森くんじゃないほうの彼が制止する。彼は細身ではあったが、僕や高森くんに比べると筋肉がしっかりついていそうな印象だ。
「まあまあ、そう言わずに。トイチくんだって、軽音部に入る前からここのドラムたたいて、先輩たちに目ぇつけられたくせに」
「うぐ……」
 宮島さんの言葉に、トイチと呼ばれた彼がたじろぐ。宮島さんの話しぶりからして、彼も1年生なのだろう。
 きりっとした顔立ちで気が強そうに見える彼だが、実はいじられやすいのかもしれない。あるいは宮島さんが見かけによらず強いのか。
「それに、何も壊されても盗まれてもないじゃないですか」と高森くん。
「はぁ……、まったく先輩方の防犯意識はどうなってるんだ……」
 トイチくんがため息をつくと、「トイチくんがそれ言う?」と宮島さんが追い討ちをかける。
「部外者が勝手にって言いたいんだろうけど、それなら黒川くんを軽音部員にしちゃえばいいんだよ」
 ……うん?

「ていうかそんなことよりさ、話を本題に戻そう! なんで今日俺らは部室に来たんだよ」
 トイチくんが話題を切り替える。
「そりゃあ、ボーカルの方と会いに……、ってそうですよ!」
 高森くんが、思い出したように相澤さんのほうを向く。
「そこのあなた……ですか?」
「翠ちゃん、彼女が、1組のボーカルやりたいって子?」
「そう。相澤藍花ちゃん」
 高森くんとトイチくんの問いかけに、宮島さんが頷く。
「はいっ、相澤です!」
 それまで僕たちの会話を眺めているだけだった相澤さんが、手を挙げて元気よく返事をした。

「そういえば相澤さん、宮島さんを探してたよね」
 僕も、先ほど相澤さんが言っていたことを思い出した。
「翠ちゃんと同じ中学の子が私のクラスにいて、私が軽音ちょっと興味あるって言ったら、軽音部の翠ちゃんを紹介してくれたんだよ」
「ちょうど私たちもボーカル探してたところで、あいちゃんがボーカルやりたいって言ってたから、キスケくんとトイチくんとの顔合わせも兼ねて、今日部室に誘ったの」
 なるほど、そういうことだったのか。
「もともとトイチがまず俺にバンドやろうって持ちかけてきて、そのあと俺が同じクラスの翠さんに声かけたんですよ。入学式の日のホームルームでやった自己紹介で、翠さん、ベース弾けるって言ってたんで」
 高森くんが補足する。
 そういえば宮島さん、そんなことを言っていたっけか。そのときの僕は軽音部に入るつもりはまったくなかったし、そもそもベースという楽器がよくわからなかったので聞き流していたのだろう。

「で、部室に来てみたらこうして黒川くんの姿もあったわけですよ」
「……あ、なんかすみません、勝手に……」
 僕が再び小さくなっていると、「ちょうどいいじゃないですか!」と高森くん。

「黒川くん、うちのバンドでキーボードやってくださいよ!」

「え、ええ……?」
 うすうす予想していた展開ではあったが、実際に言われると返答に詰まる。

「翠さん、キーボードもできればほしいって言ってましたよね」
「そうだね。リストが弾けるなんてすごい戦力だよ」
 宮島さんも高森くんとよく似た形のケース──こちらの中身はベースであるが──を背負っている。しかしリストや『愛の夢』の名前が即座に出てくるあたり、彼女はピアノもわかるのかもしれない。

「トイチ的には? あれだけ弾けりゃ十分ですよね?」
「シンセを使いこなせるかってのはあるけど、それでもやっぱり根幹となるのは演奏そのものの技術だから、その意味では問題ないな」
「そ、そうですか……」
「それに黒川くんが軽音部に入れば、さっきのも『部外者が無断でやった』ことにはならないし、黒川くんも、『不法侵入したわけじゃない』って堂々と言えるでしょ」
 宮島さんが囁いた。
 ……こういうのを「弱みを握られる」というんだろうか。

「決まりですね」という高森くんの言葉に、
「うん、いいと思う! 一緒にバンドやろうよ、黒川くん」と相澤さん。
「あ、相澤さんまで……」
 どうやら逃げるという選択肢は残されていないようだ。
 とはいえ彼らは僕の演奏を聴いたうえで誘ってくれているわけだし、悪い話ではないだろう、とも思った。

「さ、メンバーが揃ったことだし」高森くんが、ギターケースを背負い直した。「どうしますリーダー?」
「そろそろ時間だ。スタジオ行こう、スタジオ。よかったら二人も来なよ。ああそうだ、俺は2組の松田橙一郎(まつだとういちろう)。担当はドラム」
 トイチくんが、僕と相澤さんに自己紹介をする。二人も来なよ、というのは僕と相澤さんに対して言っているのだろう。
 スタジオ? と思っていると、相澤さんは「行く! 行きたい!」と迷いなく答えていた。
「せっかくだしさ、黒川くんも行こうよ。それともこのあと何か用事ある?」
 相澤さんに言い寄られ、断る理由も特に見つけられなかった僕は、彼らとともにスタジオとやらに足を運ぶこととなった。
 
 
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