2018/07/10

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【小説】『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~ 第13章

──僕の「好き」という感情は、果たして〝正しい〟ものなのだろうか?
 
前 → 『白と黒の雪どけに』 Film.1 ~雪が溶けると~ 第12章
 
最初 → 『白と黒の雪どけに』 Film.0 ~プロローグ~
 
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『白と黒の雪どけに』Film.0 ~プロローグ~
『白と黒の雪どけに』Film.1 ~雪が溶けると~
『白と黒の雪どけに』Film.2 ~ポートレイト~
『白と黒の雪どけに』Film.3 ~君ともう一度会うために~
『白と黒の雪どけに』Film.4 (制作中)
 
『白と黒の雪どけに ~snowdrop portrait~』設定・登場人物など
『白と黒の雪どけに』あとがきのようなもの (制作中)
 
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【Film.2 ~ポートレイト~】

 中学の卒業式の日、僕は絵梨奈(えりな)と約束をした。
「毎年スノウドロップの写真を送り合う」ということ。

 僕が高校時代に使っていた携帯電話のメール送信履歴には、絵梨奈に送ったメールとそのときに添えた写真が今でも残っている。
 もちろん、絵梨奈からもらったメールもすべて保存してある。

 ここからは、絵梨奈とともに過ごさなかった時間の話をしよう。

  *

◆ 第13章

 高校の合格発表は、中学の卒業式の翌日だった。
 結果は、無事合格。
 僕は絵梨奈にメールで合格を報告すると、絵梨奈からも合格したという返事がきた。
 3月の終わり頃には彼女は実家を離れ、高校の近くにある祖父母の家に移るということだった。

 これから僕と絵梨奈は別々の環境で、それぞれの時間を過ごすことになる。

  *

 僕が入学した高校──地元では「一高(いちこう)」と呼ばれている──は、私服校であることからも窺えるように、自由な校風だ。あとで知ったことだが、公立の私服校というのは珍しいらしい。
 中学時代は制服の着こなし方にその人の性格が表れていたものだが、ここでは身に着けている服装そのものにその人の人となりが反映されていた。僕たちはめいめいに自らの個性を表現していたと思う。
 校則も緩く、先生から厳しく生活指導をされることもない。1年生にはまだ少なかったが、2年生や3年生になると髪を明るい色に染める人やピアスを空ける人なども出てくる。
 それでも羽目を外しすぎる人がいないのは、誰もが一定の節度と良識をもっているからだろう。そのあたりはさすが県内随一の進学校といったところだ。

 卒業式の日に絵梨奈と話したことが、僕に何らかの変化をもたらしたのかもしれない。
 あるいは単に、環境の変化に浮き足立っていたのが、たまたまいい方向に働いただけかもしれない。
 いずれにせよ入学して数日で、僕には早くも友人と呼べるクラスメイトができた。自分にも教室の中でこんなに立場があったんだ、と思った。
 いわゆる高校デビューというものには程遠いが、中学のときよりもほんの少しだけ、僕は自由気ままに行動できるようになっていたと思う。
 高校生活は、悪くないスタートを切れたのではないだろうか。

 ただ、絵梨奈のことは誰にも話さなかった。

  *

 高校に入って2週間ほどが過ぎた、ある日の放課後。
 この高校には決まった仮入部期間や正式入部日などというものがあるわけではなかったが、この頃になると1年生も大多数の人が部活を決め、放課後は活動に励んでいた。

 進学校だからなのか高校というのはどこもそうなのか知らないが、テストがやたら多い。春休みからさっそく課題を出され、入学早々テスト勉強に追われることになった。担任の先生は、来月には模擬試験で全国の高校生と競うことになるぞ、とホームルームで話していた。
 一方で、文武両道を方針として掲げているため、行事や部活動も盛んだった。
 部活動に所属せず勉強に専念するという選択肢もあったが、実際そうしている人は少なく、同好会や委員会まで含めるとほとんどの生徒がどこかには所属していた。兼部している人も多いようだった。

 僕も何らかの部活には入ろうと思っていた。
 せっかくこの学校に入ったのだから、何かしらやっておかないともったいないだろう、というのもあった。
 しかしながら、この時期になっても僕は未だに決めかねていた。
 高校入学を機に新しく何かを始めるのも悪くないとは思っていたが、かといって特にやりたいことがあるわけでもなく、気がつけば帰宅部のまま4月の下旬を迎えていた。

 ひとまず、運動部は真っ先に選択肢から外していた。
 ただでさえ僕は運動が苦手だったし、別の高校ではあるが姉が剣道部に所属していて、毎日へとへとになって帰ってきているのを見ていたからだ。どうやら練習量は中学の比ではないらしい。
 そうなると候補は文化部だ。
 同好会も含めると文化部は運動部よりも数が多い。中には名前だけでは何をしているのかよくわからないような部もあった。

 廊下を歩いていると、吹奏楽部が練習しているのが聞こえてくる。
 この高校の吹奏楽部は県内屈指の名門として知られていて、部員数も相当多い。ピアノ以外の楽器経験が皆無の素人にとっては敷居が高すぎた。

 音楽系の部活といえば、あとは合唱部と軽音楽部くらいだろうか。
 どちらも実際に活動しているところは見たことがなかったが、部室なら部室棟のどこかにあったはずだ。
 ほかにもさまざまな部の部室が部室棟にはあるし、一度くらい覗いてみるのもいいか、と思い、僕は部室棟に向かってみた。

  *

 部室棟は、まっすぐな廊下といくつかの小部屋が並んでいるだけの、古びた二階建ての建物だ。簡素で小さな安アパートのような構造といったところだろうか。
 主に1階の部室が運動部、2階の部室が文化部に割り当てられていた。
 校舎の裏口から行くのが一番近いのだが、昇降口からだと校舎の外側をぐるりと回ることになる。
 僕は部室棟に着くと、2階に向かった。
 はっきり言って日当たりは悪い。空調がなければトイレすらもない。一応、各部室に一つはコンセントがあるようなので、部によっては扇風機やヒーターなどを持ち込んでいるところもあるらしい。
 そんな場所なので、日頃の活動をここで行っている部は少なく、半分くらいの部室は物置のような状態と化していた。

 合唱部の札がついている部屋も例外ではなかった。
 扉には鍵がかかっていた。
 防音のボの字もなっていないようなこの部室棟が、練習に適しているとは思えない。どこか別の場所で活動しているのだろう。
 ──合唱部というところでも、伴奏は生徒がやるんだろうか。まあ仮にそうだとしても、絵梨奈の指揮で弾けるわけではない。もとより僕は歌いたいわけではなかった。合唱については正直、中学の3年間でもう懲りていた。
 僕は合唱部室を素通りした。

 新聞部、天文部、生物部と書かれた部室を挟んだ先に、軽音楽部と書かれた部室の扉があった。
 扉の小窓から覗いた限りでは、中には誰もいないようだった。楽器や機材が乱雑に放置されているのが見えた。
 僕がおそるおそるドアノブに手をかけたのは、部室の中にある白と黒の鍵盤──ピアノではなく、キーボードと呼ばれる電子楽器だが──が目に入ったからだろうか。

 扉は難なく開いた。
 機材がこんなにあるのに防犯は大丈夫なんだろうか、と思いながらも、僕は中に足を踏み入れてみた。
 部室の奥、隅にはスピーカーとアンプが積まれている。真ん中には、素人目にも乱れているのが見てとれるドラムセット。その手前には、スタンドの上に置かれたまま埃をかぶったキーボード。壁に立てかけられたギターやベースは、ケースからはみ出しているもの、剥き出しになっているもの、弦が切れているものなどさまざまだ。
 床には、機材をつなぐケーブルや、おそらく過去の先輩たちの置き土産であろう教科書やテスト用紙などが散らばっていた。
 足の踏み場はあまりない。お世辞にも綺麗な部室とは言い難かった。

 落ちているものをなるべく踏まないように、僕はキーボードに歩み寄った。
 電源は入りっぱなしになっていた。鍵盤をたたいてみると、近くのスピーカーから音が鳴った。どうやら壊れてはいないらしい。

 中学の卒業式で卒業生合唱の伴奏をして以来ろくにピアノには触れてこなかったが、10年も習っていたせいか、やはりこうして鍵盤を前にすると弾きたくなるものだ。
 誰もいないのをいいことに、僕はレパートリーの中から簡単な曲をいくつか選んで軽く演奏した。ピアノとタッチの感覚が違うので少しやりづらさはあったが、それにも次第に慣れてきた。

 どれくらい時間が経っただろうか。僕がふと手を止めたところで、「あの……」という声が聞こえた。

 そこにいたのは、眼鏡をかけたポニーテールの女子生徒だった。
 先輩だろうか。それとも1年生だろうか。私服だとこういうときに判別がしづらい。

 ……いや、そんなことは今はどうでもいい。客観的に見れば、僕は軽音部の部員でもないのに部室に勝手に侵入して勝手に演奏していたことになるのだ。
 まずいことになったかもしれない、と僕は思った。
 
 
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