2018/03/12

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【小説】『明日はきっと晴れますように』エピローグ

どうかあなたが、少しでも優しい夜明けを迎えられますように。
 
前 → 『明日はきっと晴れますように』第10章 明日はきっと晴れますように
 
最初 → 『明日はきっと晴れますように』プロローグ
 
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◆ エピローグ
 
 
[8月26日 土曜日]
 
  ●
 
 小雨が降る中、街を歩き、電車に乗って目的地へ向かう。
 電車の中、窓を濡らす雨粒と空を覆う雨雲を見ながら、私はこれまでのことを思い出していた。
 
 2017年4月、私は大学に進学した。
 実を言うと、12月に返ってきた模試の結果を受けて、一通り投げやりな気分になったあと、受ける大学をもう一度考え直してみたのだ。
 私が学びたいことは何なのか、私はどういった分野に興味があるのか、私は大学生活の中で何を得たいのか。それまで真剣に考えてこなかったのだけど、いざ考えてみると、今まで視野に入れていなかった大学、学部、学科が見えてきた。
 幸い、それらの中のいくつかには私の学力でもじゅうぶん合格ラインに届いた。10月頃に基礎を固めていたおかげで、いろいろな問題に対応できる応用力がついていたみたいだった。一つの大学に固執しすぎなかったのもかえってよかったのかもしれない。
 
 最終的に、当初志望していた大学よりは少しレベルが下のところに入ることになったのだけど、大事なのは、どこに入るかではなくて、入ったところで何をやるかだと今は思う。
 何もなくても気軽に立ち寄れて、心の拠り所となれるような、心に雨が降ったときに雨宿りができるような、そんな温かい居場所を作りたい。漠然としているのだけど、これが今の私の目標。実現する方法は、これから探っていこうと思う。
 
 自分の居場所を探そうと思うから、窮屈に感じるんだ。だから、誰かの居場所を作ってあげればいい。そうすればきっと、誰かが私を必要としてくれる。その誰かが自分の居場所を与えてくれる。
 そう思えるようになったのも、あの喫茶店と、空色のノートのおかげだろうか。
 
 目的の駅に着いた。電車を降りて駅構内を抜ける。雨は止んだようだった。灰色の雲はまだ残っているけど、西の空に、うっすらと晴れ間が見えた。
 いい天気だな、と思った。
 
  ○
 
「今日はわたしの歌を聴きに来てくれて、ありがとうございます」
 
 広場に設置されたステージと噴水を囲むようにショップやレストランが立ち並ぶ、3階建ての大型商業施設。
 その屋外ステージの上に、彼女は立っていた。
 
「あなたはどんな人ですか? どういう日々を生きて、今ここに来ていますか?」
 
 彼女がデビュー2周年を迎えた今日、ライブがここで行われていた。
 ステージ前の観覧スペースは始まる前から大勢の人で埋め尽くされていた。ライブが進むにつれ、買い物を楽しんでいた人、食べ歩きをしていた人、お喋りに興じていた人も、いつの間にか、立ち止まって彼女の声に耳を傾けていた。
 
「わたしは、世界のことも自分のことも、あまり好きになれなくて、ずっと部屋の片隅で震えてました。こんなわたしが生きてていいのかなって、泣いてた夜もありました。わたしは歌うことくらいしか、好きになれませんでした。だから、歌に救いを求めるしか、できませんでした」
 
 今年19歳になった、私と同い年の彼女は、少し上がった息を整えながら話す。
 綿雲のような白色のポンチョに、空色のアコースティックギターがよく映えていた。ギターのチューニングをして、彼女は話を続けた。
 
「そうして歌っていたら、わたしを見つけてくれる人が現れてくれたんです。皆さんがわたしを見つけてくれたおかげで、わたしは今日も、こうして歌うことができています。音楽がなかったらたぶん、わたしたちは、平行線のままでした。けれど音楽があったから、今こうして、交わることができています」
 
 記憶を手繰るように、未来へ漕ぎ出すように、マイクに向かう。その声に迷いはなかった。
 
「生きているって、それだけでもけっこうすごいことだと思うんです。冷たい雨に打たれる日もあれば、一人ぼっちで震える日もあると思います。わたしはありました。だからこそ、そういう日々を生きている誰かを、歌で救っていきたいです」
 
 彼女は、自分に視線を向けている人すべてとアイコンタクトをとるように、ゆっくりと会場を見回した。
 
「わたしは人の輪郭を、存在を、肯定できるような歌を歌っていきたいです。孤独を抱える人、日陰に生きる人、そういう人たちに、わたしの歌が力になっていたら嬉しいです。わたしは音楽で少しでも、皆さんの、あなたの、生きる希望になれたらなって思います」
 
 ここで彼女は言葉を切り、空を見上げた。
 つられて私も、空を見上げる。
 
「あなたには、どんな空が見えていますか? わたしは、雨雲の隙間からやっと太陽の光が見えてきました」
 
 見上げた先には、灰色の雲はなくなっていた。青空が広がり始めていた。
 
「次で最後の曲です。
 いつか、何もかもがどうでもいいって思ったときに、それでも、もうちょっとだけ生きてもいいかなって思えるように。土砂降りの心に、温かい日差しが注ぎますように。あなたが優しい夜明けを迎えられますように。今あなたがいる場所が、今より少しでも温かい居場所になりますように。そう願って、この歌を届けます」
 
 虹が架かった空に、彼女の声が響く。
 
「わたしの、柊朔乃のデビュー曲です。聴いてください。『明日はきっと晴れますように』」
 
 
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
 
『明日はきっと晴れますように』 了
 
 
作品解説
『明日はきっと晴れますように』あとがきのようなもの
 

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