2018/03/07

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【小説】『明日はきっと晴れますように』第6章 こぼれ雨

どうかあなたが、少しでも優しい夜明けを迎えられますように。
 
前 → 『明日はきっと晴れますように』第5章 秋時雨
 
最初 → 『明日はきっと晴れますように』プロローグ
 
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◆ 第6章 こぼれ雨
 
 
[10月7日 金曜日]
 
  ◎
 
  10/7 (金)
  受験勉強に専念したいと思います。
  たぶん、『あまやどり』にはしばらく来ないと思う。
  受験が終わったら、またよろしくね。
 
 
 私は当分の間、『あまやどり』からは離れることにした。
 
 大学を受験する全国の受験生は、大半が1月にセンター試験というものを受ける。もちろん私も例外ではない。
 そして、今日でセンター試験まであと100日、らしい。
 受験が間近に迫っている、という実感はまだあまり沸いてこない。塾や予備校に通っていれば刺激もされて奮い立てられるのかな、と思うのだけど、私は通っていない。経済的な問題もあるのだけど、それ以上に、家が遠くて終電が早いため通っていると帰れなくなってしまう、というのが大きな理由だった。そんなわけで、私は否が応でも自分で自分を追い込んでいくしかなかった。
 1カ月後にはまた模試も控えている。私の志望している大学の本番の試験形式に即した全国模試だ。
 曲がりなりにも私は受験生なのだ。形だけでも勉強に注力していくことにした。
 
  ※
 
 それからの1カ月は、まあ私なりにがんばったのではないかと思う。
 電車にいる間に、一つでも多くの単語を頭に入れるよう心がけた。問題を解く時間を少しでも増やして、数をこなすようにした。わからなくても間違えても、次に同じ問題が出されたら解けるように、考え方を身につけることを目標にした。基礎的な部分の知識は徐々に定着してきた実感があった。
 しかし解く問題の数に反比例して自信というのはなくなっていくもので、こんなこともわからないのはまずいのではないか、どうして私はこんな問題すらも解けないのだろう、などと思うようになる。
 だけど、そんなときこそヘッドフォンが離せなかった。ヘッドフォンで雑音や雑念を遮断するやり方が、私には合っていた。
 
 
[12月14日 水曜日]
 
  ◎
 
『あまやどり』を最後に訪れてから2カ月以上が過ぎていた。
 あれから、入試が近づいているという実感とともに、勉強もそれなりにやってこれたと思う。2カ月前には解けなかった問題も今なら解けるようになっている気がする。
 だからこそ、11月初旬に受けた模試の結果が返ってきて、第一志望の判定を見たときはショックだった。
 E判定。要するに、最低ランク。
 夏に受けた模試ではC判定だった。あのときより勉強したはずなのに。なんで? どうして? 受験者全体のレベルが高かったとか、夏まで部活に打ち込んでいた生徒が頭角を現してきたとか、理由はいろいろ考えられた。
 だけど私も、死に物狂いで努力したというほどではないにしても、自分なりに10月から11月にかけてはがんばってきたつもりだった。それが無駄だったと言われた気がした。
 やっぱり自分はだめなのだと思った。
 
 ちょうどこの日の放課後、担任の先生との進路面談があった。
 最近の勉強の調子はどうとか、センター試験の対策は進んでいるかとかいう話を始めにした。模試の結果が芳しくなかった手前、私は勉強が順調ですとは言えなかった。
「うーん」進路希望や模試の結果がまとめられた書類を見て、先生が眉間にしわを寄せた。「この時期にあんまり言いたくないけどさ、鈴木さんにこの大学は、ちょっと厳しいんじゃないかなぁ」
「そう、ですか……」
「そもそも、なんでここに行こうと思ったんだい?」
 言われて、考え込んでしまった。まわりがこのくらいのレベルを受けるから? この高校に入ったからには、このくらいの大学に行かないともったいないから? はっきりこれだと言える理由がなかった。少なくとも私には、強い動機や執着みたいなものは思い当たらなかった。
「えっと……」私はあいまいな返事をすることしかできなかった。
「まわりの人を見て、自分でもこのくらいは行けるはず、みたいな考えはやめたほうがいい」
 先生が少し眉尻を下げてこちらを見る。そして諌めるように言った。
「鈴木さんは鈴木さんでしかない。ほかの人とは違うんだよ。だからさ、もう少し考え直してみたらどうだい?」
 私の中で、何かが外れたような気がした。
 
 半ば一方的に先生が話すだけで、面談は終わった。
 教室を出て、ドアを閉める。廊下を歩いて昇降口へ向かう。窓の外では、雨が降り始めていた。
 勉強の成果が認められなかった。私はみんなとは違うと言われた。
 
 ──なんだかどうでもよくなってしまった。
 
 私は、虚ろな目をしていたかもしれない。笑っていたかもしれない。
 軋みながら回っていた歯車が完全に壊れてしまったような、空回りを続けていた歯車がころっと落ちてしまったような、そんな感覚だった。
 私は私。誰かと比べようとするから孤独を感じるんだ。誰かと比べようとするから劣等感を覚えるんだ。
 どうして、自分がまわりの人たちと同じだと思っていたんだろう。私は昔から、普通の人とは生きる世界が異なっていたんだ。
 日の当たる場所にいるような人たちとは違う。私は何もできない。なんの取り柄もない。日陰者の私が、人並みに輝けると思うほうが間違っていた。
 どうでもいいやって思うようになると、冷やかしも噂話も気にならなくなった。ほかの人が輝いていても、羨ましいと思わなくなる。他人の声を気にしなければ、一人ぼっちでもなんとも思わない。
 ようやく自分で自分に諦めがついた。
 
  ●
 
 学校を出ると、私の足は『あまやどり』へ向かっていた。
 傘を差し、雨の音を聞きながら、少し早足で住宅街を歩く。
 相変わらずの風景と、マスターの「いらっしゃいませ」の声。あの空色のノートも、相変わらずテーブルの真ん中に置かれていた。
 私は椅子に座ると、〝交換日記〟の真っ白なページを開いた。思いつくままにボールペンを走らせる。とにかく何か吐き出したかった。
 
 
  12/14 (水)
  今まで私は何をがんばっていたんだろう。
  日陰者は日陰で生きるしかないんだって、
  どうして今まで気がつかなかったんだろう。
  いつかは日の当たる場所に出られるなんて、
  どうしてそんなこと考えていたんだろう。
  私みたいな奴には、最初から無理なんだ。
  希望なんてないよ。諦めるしかないんだ。
  なんかもう、何もかもどうでもよくなった。
 
 
 悔しいはずなのだけど、妙に清々しかった。むしゃくしゃしていたのだけど、吹っ切れていた。今までたくさんのものを詰め込まれていた心が一気に空っぽになり、そのまま蓋をされたみたいだった。喜怒哀楽の感情さえ、残響音程度にしか響かない。
 
 中身をろくに見ることもせず、書きたいことを書いて〝交換日記〟を閉じた。
 ホットコーヒーを飲んだ。熱い、という反射が先行して、味をあまり感じなかった。
 同時に、記憶に靄がかかったような違和感を覚えた。
 
 私が店を出るとき、マスターがひとり言のように言った。
「明日であれから5年ですね」
 あれ? ……ああそうか、あの洪水のことを言っているのかな。
 あの日川に流されて亡くなった女の子。もし生きていれば、彼女は私と同じ18歳だったんだな。彼女も私と同じように、大学受験に向けて勉強していたんだろうか、などと考えながら、私は『あまやどり』をあとにした。
 
 帰り道、私は何か大切なものを忘れている気がした。
 だけど考えようとしても、雨の音が邪魔をして、思い出すことはできなかった。
 
 
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
 
次 → 『明日はきっと晴れますように』第7章 外待ち雨
 

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